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新世紀の寺子屋(第22回)政治編

今回の授業は、日本の政治を取り上げました。もちろん、これから新聞でもメディアでも自民党総裁選のニュースが増えるでしょう。生徒さん達も、なんとなく目にするはず。その時に、ちょっと役立ってほしいからです。

さて、今回の授業ではクラスの前に、嬉しいサプライズがありました。今週は、私の誕生日だったのですが、教室に行くとドアに生徒さんが、ハッピーバースデーのメッセージと絵を貼っていてくれたのです。授業中に何度か、無意識で自分の誕生日アピールをしていたようで、生徒さんが覚えていてくれました。また、別の生徒さんもお手紙をくれました。いやー、寺子屋を始めて良かったと思いました。ありがとうー。

さて、まずは国会議事堂です。この国会議事堂の中央の吹き抜け部分は、なんと法隆寺の五重塔がまるまる入ってしまうほどの高さがあるんですね。この現在の国会議事堂は建設に16年も費やしました。1920年に着工して、完成は1936年です。なぜ、こんな年数を要したのでしょうか?なんと、1923年の関東大震災も乗り切ったのに、1925年に火の不始末で1回焼けてしまったようです。とほほですね。

今日のテーマは政治ですが、政治を学ぶ上では「権力」を理解する必要があります。「権力」・・・なんか重く、嫌な言葉ですね。生徒さんに、身近に権力を感じることは?と質問したら、どの生徒さんも「学校の先生」を例に挙げてくれました。その通りです。学校では自由にできません。授業中にお弁当を食べると怒られますね。先生が「静かにしてください」と言われたら、楽しいお喋りを止めないといけません。先生には権力があるのです。
また、1人の生徒さんは、いきなり「藤原道長」の名前を出して、権力を説明してくれました。「藤原道長」、まさに権力の象徴ですね。権力は我々の周囲にたくさんあります。家の中でもありますね。お父さんや、お母さんは、「ゲームは1日に1時間まで」とか、「22時には寝なさい」とか、「門限は21時!」とか、色々と強制力を発揮しますね。これらも権力です。


権力の中でも、最大級の権力は「国家権力」でしょう。国家は、毎年巨額のお金を税金という形で国民から徴収します。毎年、日本では60兆円以上のお金を政府は国民から徴収しているんですよ。凄い権力ですよね。また、必要とあらば、国民を戦争に行かせる徴兵制を導入することも可能です。その国家権力には、ルールを作る「立法」、ルールを運用する「行政」、正義を守る「司法」の3つの権力があります。3つの権力=三権ですね。

中学生になると、「三権分立」という言葉を学校で習います。昔の王様は、全ての権力を握るパターンが多かったですよね。その中から、とんでもない王様も登場しました。いわゆる「暴君」です。民は苦しめられる歴史を経て、現代では三権を分立させ、それぞれをチェック・監視する仕組みを多くの国が採用しています。国家権力を監視しているのです。

特に厄介なのは「立法」です。権力者は、好き勝手やるんですが、その際に都合の良い法律を作るのです。どんな変な法律でも、法律は法律です。「王様に従わないものは死刑」という法律が成立したとします。王様は気に入らない人をどんどん殺します。酷いことですが、これは法律に則った行為となり、他国が「人道的ではない」とか非難しても、王様は「我が国の法律に口を出すな。内政干渉だ!」と言えるわけです。
生徒さんには、南アフリカのアパルトヘイトの動画を見てもらいました。この酷い人種隔離政策でも、為政者は様々な法律を次々に作成し、法律に則って、徹底した人種差別を行ったのです。我々の身近でも、中国が「海警法」や「スパイ法」などを作成し、国内法に則って、いろいろと許されないことを行っていますね。権力と法律は非常に危ない関係にあるのです。

さて、国会に戻りましょう。国会議事堂の建物は、下の絵の通りで左右対称なんですね。右側が参議院、左側が衆議院です。国会議員には2種類います。参議院は昔は「貴族院」という名前で、貴族とか皇族とかの上級国民から選ばれる仕組みでした。衆議院は、一般の国民から選ばれた議員です。従って、昔は貴族院のほうが衆議院より格上だったんです。それが戦後は、貴族院は参議院となり、そうした格差は解消されました。

参議院議員の任期は6年と、衆議院議員よりも長いです。参議院の議員には、学者とか産業界出身者とかも多く、広く様々な見識で中立的に衆院や内閣をチェックする役割が期待されてきました。これが参議院が「良識の府」と呼ばれてきた理由です。しかし、現在では多種多様な議員が増えたことは良いのですが、単に知名度があるだけで深い良識を伴わない議員も増えているような気がします。

この衆議院と参議院を、小学校でイメージしてみましょう。ある小学校で、来年の給食のメニューを検討する議論をしているとします。衆議院の議員は4年生です。4年生グループが様々な意見を出し合い、給食のメニューを決めます。参議院に該当するのは6年生グループです。6年生グループは、4年生が出してきた給食案が、本当に良いものかをチェックします。例えば、毎日ハンバーガーでは体に悪いですよね。そういう場合には、4年生グループに「健康のことも考えて、修正してほしい」と案を突き返すのです。こうして4年生と6年生が議論を重ねて、両方が納得できる給食案ができると、それが法律になるのです。

さて、恒例のクイズで一休みしましょう。しかし、今回は難しいですよ。

国会中央食堂の名物メニューは「カレー」ですね。だいたい、各地にある名物メニューってカレーですよ。富士山の山小屋の看板メニューもカレーですし、横須賀海軍基地もカレーが有名ですよね。さて、国会議事堂の食堂には、一般人は入れません。但し、国会議員が一緒なら入れるようです。友達に国会議員がいるといいですね。

両方とも正解ですね。次の問題5と6はマニアックです。

正解は110文字!長い法律があるんですねー。「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う道路運送法等の特例に関する法律」というらしいです。長過ぎるわ!
問題6は正解です。生徒さんは、穴の開いていない五円玉は知らないかな?昔はあったんです。その5円玉には国会議事堂がデザインされていました。

問題7と問題8は、何故か生徒さんは皆さん正解でした。

国会にあるのは花屋さんですね。問題8はさつまいもです。

さて、政治家とはどういう背景を持つ人がなるのでしょうか?
下のスライドはよくあるパターンを選びました。

まずは親が政治家というパターンですね。子供は親の背中を見て育つ?それはともかく親が政治家というケースは非常に多いです。つぎに官僚から政治家というケースも目立ちますね。官僚とは、昔で言えば「東大法学部を卒業して財務省」的ないわゆるエリートです。政治家が決めた法律を実際に条文にして、社会に導入するのが、官僚の仕事ですね。こういう仕事ですから、政治家に転向しやすいのでしょう。それから、政治家の秘書です。秘書とは、政治家のスケジュール管理、スピーチの原稿の手配、選挙区の情報収集、有権者との関係構築から、お金の管理まで行います。政治家には優秀な秘書さんが必要ですね。よくテレビドラマなどでは、政治家が悪いことをした際に、政治家は「秘書が勝手にやったことだ」と白を切りますね。秘書は身代わりになることで、政治家を守ります。それくらい、秘書さんは政治家の仕事を裏も表も精通していますので、政治家になりやすいのでしょうね。草彅剛さんが、「罠の戦争」というドラマで政治家の秘書を演じていましたね。
また、国会議員の仕事とは、究極的には法律を作ることです。従って法律に精通した弁護士なども政治家にはなりやすいですね。大阪市長の橋本さんは、今ではタレントの仕事が目立ちますが、もともとは弁護士でしたね。また、テレビキャスターから政治家になる人も多いです。抜群の知名度、ニュースなどを解説してきた信頼度などで、選挙に強いのでしょう。身近なところでは、小池百合子さん(東京都知事)とか、蓮舫さんなどはアナウンサーでしたね。

生徒さんに、総理大臣になりたいか?と質問したら、1人の生徒さんは「なってもいいかな」と前向きな回答でした。総理大臣になる手順は、以下のようなものです。まずは自民党の党員になりましょう。年会費4千円で誰でもなれます。そして青年部で活躍しましょう。安倍晋三元総理も、今話題の小泉進次郎氏も、自民党の青年部局長でした。党員として地元で頑張っていると、だんだん人脈ができます。そして地方の市議会議員とかになるのです。市議会議員くらいであれば、頑張れば当選できますよ。地方議員になり、地元の支持基盤を作るのです。あなたを応援してくれる人々を作るのです。選挙は1人ではできません。そうして強固な支持基盤ができて初めて、国会議員への道が見えてきます。運よく当選できれば、後は選挙のたびに当選を重ねて実績を作ります。当選回数が増えれば、有力な政治家として、様々な要職に就くことができます。これまでの自民党総裁の例では、当選回数は8回程度は必要でしたし、自民党内の重要な役職を2つくらい経験し、大臣も幾つか経験している必要がありました。こうして、自民党総裁になることができ、その時に自民党が与党であれば、総理大臣になることができます。

総理大臣になるのは、気の遠くなるようなプロセスですね。だからこそ、日本では世襲議員が多いのです。世襲議員とは、お父さんなどが既に国会議員であるケースです。政治家になるためには、「ジバン、カバン、カンバン」の3つの「バン」が必要と言われます。地盤は支持基盤ですね。カバンは資金力です。選挙にはお金もかかります。そして看板とは知名度です。世襲議員は、お父さんがこれらの3つを全て準備してくれています。先ほどの総理大臣になるプロセスで言えば、①~⑤は省略できるのです。いきなり、⑥からスタートすることが可能なのです。ゆえに、異常なほど世襲議員が多いというのが現状の日本の政治の状況です。

国会議員になっても、たった1人では何もできません。ゆえに、同じような考え方、同じビジョンを持つ仲間と協力します。正式な政党は、国会議員が5人以上必要です。または、国会議員が1人以上いて、直近の選挙で得票率2%以上を獲得できれば政党として認められます。これは公式な組織です。
その政党の中に、親分的なリーダーが何人かいると、派閥ができます。安倍派とか、岸田派とか、麻生派とか、だいたい親分の名前で呼ばれますね。しかし、昨年来の政治と金の問題により、麻生派を除いて、派閥は解消されてしまいました。今は麻生派しかないことになっています。

その政党ですが、これまでの日本の戦後の歴史においては、その大半を自民党が支配してきました。下の図のように、非自民の期間は僅かしかありません。日本では自民党を脅かすような政権交代の可能性がある政党がないのです。これは、大きな日本の政治の課題です。

さて、岸田総理が9月の自民党総裁選に出馬しないことを発表しました。すなわち、これから自民党は次のリーダーを決める選挙戦を行うのです。但し、これは自民党という1つの政党のトップを決める選挙戦です。当院ではない人々は、それをニュースで見るだけで、投票ができるわけではありません。この辺がちょっとごちゃごちゃしますね。

整理しましょう。首相と総理大臣は同じ意味です。これは国の3つの権力の1つである「行政」のトップを差します。日本の行政のトップが総理大臣であり、首相です。これに対して、総裁という言葉は、日本の総裁ではありません。自民党の総裁です。従って、総裁と総理は違うのです。但し、その自民党が国会を支配している政権与党のため、総裁になるとその後に国会で総理大臣になるので、結果的に同じ人が総理大臣、首相、総裁になるケースが多いのです。

2009年~2012年は、自民党は政権与党ではありませんでした。この時の国会は、民主党が過半数を占めていました。この2009年~2012年の首相は民主党から3人が出ています。この間に自民党は谷垣さんが総裁でしたが、谷垣さんは首相ではありません。

それにしても、岸田首相はどうして、次の自民党総裁選に出馬しないことを決めたのでしょうか?それは国民の世論において、岸田首相を支持しないという声が大きくなったからです。国家権力を外側から監視しているのは、国民の力、国民の世論なのです。

こうして、9月の自民党総裁選挙が始まります。今回の総裁選には、10名以上の候補者が出馬を検討しています。しかし、出たいからといって出れるわけではありません。下のような条件があります。2番目の国会議員20名の推薦が必要という条件が結構大変なのです。

いずれにしても、9月27日に新しい自民党総裁が決まります。また、寺子屋でも取り上げていくつもりです。今回は、ちょっと難しい授業でしたね。お疲れ様でした。

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