ツツジの蜜
学校は好き
友達もいるし好きな男の子もいるし
先生は2年の頃の方が良かったけど、まぁ今年も嫌いじゃない
だけど今日は無理
別に時間割も悪くない、図工2時間あるし
でも無理今日は学校行けない
お母さんも私が学校好きなこと知ってるから、簡単にうそ風邪を信じてくれた
学校用の高くて整った声をベットで聞きながら私はちょっとの罪悪感とたっぷりの安心感で満足する
今までうそ風邪を使ったのは2回で、1回目は小学校入ってからはじめての朝のスピーチが回ってきた日、2回目は去年のバレンタインデーだった
今ならスピーチなんかで何を怖がってたのか不思議だけどあの時は前の日の夜からドキドキなんかしちゃって、ちゃんと文章組み立てたのに結局起きたら不安で休んじゃったんだ
でも今日はもっと深刻
なんと昨日の帰り、好きな男の子にツツジの蜜吸ってるとこみられちゃった
私のうちはお母さんもお父さんも東京出身だからお友達に教えてもらうまで全然知らなかった、ツツジには蜜があって、それは本当に美味しいってこと
知ってからは毎日通学路からちょっと逸れた小さい公園でバレないようにコソコソピンクの花を吸ってた
だってそれを聞いた時に「えー!花の蜜を人間が吸うのー??へんなの!!」ってみんなと笑っちゃったから
好きな男の子はサッカーボールをポンポン弾きながら、私がランドセルをベンチに置いてピンクを口に咥えてるとこ見て、
「わ」
って言った
お母さんの声がしなくなった布団の中で思い出してどうしようもない気持ちになってしまう
あの時なんて思ったんだろ
いつも上品ぶってるくせに花の蜜なんか吸って田舎臭いって思われたかな、幻滅されちゃっただろうな
明日までに記憶消えないかなーそれかビックニュースでかき消されるとか
私はあの時なんて言えばマシだったか考えながら何回も寝返りうって、気づいたら寝ちゃってた
そして夢を見た
「昨日の帰りアイツ見てさ、一人で公園にいたから何してるのかなって思ってちょっと見てたら口にツツジ咥えてて、俺、見てたことバレたと思って逃げちゃったんだけど、めっちゃ可愛かったんだよなー、ちょうちょかよ!って思った」
次の日の朝、私のうそ風邪はすっかり治ってた
お母さんは今日のスカートにはリボンの柄の靴下が似合うって言ってたけど、ちょうちょのがいいって言ったらそれにしてくれた
いつも私のこと苗字にさん付けで呼ぶ好きな男の子がアイツって話す嬉しそうな顔を思い出してそっかそっかってニコニコしちゃう
今年のバレンタインは元気に学校に行けそうだ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?