どうやらナチュラルメイクの女の子が好きみたい

どうやらナチュラルメイクの女の子が好きみたい

今日もどうせいない
いない
いない

先頭車両の二番ドアは統計上1番いい場所だった
それでも朝からわざわざ落ち込みたくないからいないと思って電車に乗り込む

いない
いない

今日もどうせ

いない


いた

今日はいた
いた
いたいた


心臓は大きくリズムを崩した後、今までより遥かに速いスピードで全身に血を送る
前髪とおでこの間がジワリと湿って、指先の神経が異常なほど冴え渡った

いないと思ってればいなかったときの衝撃は和らげられるけど、いたときの衝撃は
考えてなかった

昨日の夜ごはんのドレッシングの量を悔いる
そのせいで今朝ちょっと浮腫んでいたから化粧が濃くなっちゃったかもしれない
とりあえず前髪は割れてない、携帯は見ない、カバーのかかってない小説を少し高い位置で持って読む

彼はイヤホンをしていた
前に会えたのはほぼ1ヶ月前
その間に彼が好きらしいアーティストの新譜が出てたから多分それを聴いてる
携帯は見ない、眠たそうな目で何処とも言えない空間にふわりと目線を置いている

バレない程度に気づいて欲しい
お願い、視界に入れて、これ、あなたも好きな小説だよ
いや、私はそんなに好みじゃないけど、好みが似てない方が実は相性いいとか言うし、でもやっぱ最初は共通の話題って強いし、お願いしますどうか少しこっちを

と、願いながら、逆のことを考えてた

見ないでくださいもう少しでも希望を持たされたらもっと本気になっちゃうから、お願いだから小さな反応なんてしないで、いつも通り何事もなく、乗り込む人の方が多いあの駅で降りてください


願いは叶わず、考えはその通りになった


次いつ会えるだろう
小説は一向に進まないし、もうなんで好きなのかもわからなくなって来た
SNSで鍵もかけずに垂れ流される彼の日常と趣向を見る日々は、たまに何をしているんだと我にかえってしまい少しだけ気が滅入る

それでも

まだ心臓は電車の揺れよりも速く収縮しているし、彼のことを考えすぎて起きているのに乗り過ごしたし、それら全てを覆う、会えて嬉しいの気持ちが全然諦めきれてないという何よりの証明だった

快速の止まる駅で降りて向かいのホームまで歩く
馬鹿みたいに大騒ぎしてる体内は浅い息切れとなって表に姿を見せる
きっと誰にも気付かせない
好きな人なんていない、恋なんかしてない、という顔を待合室の自動ドアで確認して逆方向の電車に乗る

「眠い」という誰も得しない彼の呟きは私の口角を少し持ち上げてからただ画面を滑り降りていった

#ミスiD

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