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オフィスでは集中して文章が書けない。超集中空間を作るには


僕が書いているそばで座っていたいと、きみは言ったことがある。けれど聴いてくれ、そうすると僕はなにも書けなくなってしまうんだ。なぜなら、書くというのは、自分をなにもかもさらけだすことだから。そうした極限の状態に身を任せているその場に他人が入ってきたら、正常な人間ならば誰だって身がすくんでしまうはずだ……

だからこそ、書くときにはいくら孤独でも孤独すぎることはないし、いくら静かでも静かすぎることもないし、夜の闇がいくら深くても深すぎることはない 。

──フランツ・カフカの言葉(『内向型人間のすごい力』3章 共同作業が創造性を殺すとき より


文章を書くというのは、紙とペン、もしくはパソコンやスマホさえあれば、誰でも出来ることです。

でもその「誰でも出来ること」「誰もが到達しないくらいの集中力」でやるからこそ、やっと文章が仕事になったり、作品になったりするのかな、と思っています。


──


文章を読んでいて、ふわりと情景が思い浮かんだり、その人の声が聞こえてきたりすることがあります。

もしくは、書いている人の悔しさや悲しさが伝わって、読んでいる側の表情まで歪んでしまうもの。さらには、場所の湿度や香りまでも体験できてしまうものも。

そうした文章は、心の底までしっかり染み渡る。友達との忘れられない体験のように、脳内に鮮やかに残像が残る。そういうものを書きたいなぁ、とずっと思っています。


(昨日公開したアイルランド紀行は、「たとえ写真がなくても、日本語の美しさだけで湿度を伝えられるようにしたい」と祈りつつ書きました)



さらりと書いた原稿がそうした湿度を含むときもありますが、やっぱり自分の感性をちゃんと開放するには、どこまでも集中できる環境に身を置き「ゾーン」に入らなきゃいけない……。

イチロー選手がバッターボックスに入る前に毎回まったく同じウォーミングアップをしていることは有名ですが、何万文字もある原稿を書くとなると、何時間、何十時間とゾーンにどっぷり浸かり続けなきゃいけない。一度入ってしまうと楽だけれども、入るまでがなかなか……。

私自身、SNSという集中阻害ツールを海より深く愛しながらも、長文を産み落とすためにゾーンに入るための、あらゆる試行錯誤をしてきました。今日はそのお話をしたいです。



その原稿は、どんな光の色?



まず何よりも大切なのは、自分の動物的本能をハンドリングすることだなぁ、と思います。

人間はそもそも動物で、動くものがあると目を向けてしまうし、大きな音がすると怯えます。そして日が昇ると目が覚めるし、暗くなると眠くなる。


だからポワッと薄暗いオフィスでは眠くなってしまうし、しっぽりお酒を飲むBARが蛍光灯だとムードもなにもありません。世の中の空間デザインは「光」をとても大切にしているけれども、それは私たちの心理や神経に大きく、とても大きく影響を与えるから。


もちろん、自分が文章を生み出すその瞬間も、実は光の影響を強く受けています。


いつもこのnoteマガジンはピカピカの蛍光灯のもとで書いていますが、それは明るい空間では交感神経優位な状況になるし、ハキハキとした文章が出やすい!というのもあります。マーケティングや戦略、ロジックの話は、要点を絞って端的に伝えたいものです。


一方、milieuを書くときはもっと、ずっと暗くしています。なかなか原稿がのらないときは、蝋燭の光で書くことも。


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蝋燭をボーっと見つめてから書き始めると、かなりほぐれていく、溶けていくなぁ、というのがよくわかる。

原稿を書く前に、この原稿はどんな光の色が似合うのだろう? と考えてイメージしてみると良いかもしれません。


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milieuの色は、朝の静かな湖。
via https://www.instagram.com/yansukim/


オフィス空間は、文章を集中して書くにはオープンすぎる


ただ、会社員の場合は、なかなか難しいですよね……。


常時電話が鳴り、同僚たちのおしゃべりが交わされ、常にオープンであるオフィスでゾーンに入るのは至難の業。

また最近は、大手Webメディアであれど、ファクトだけではなく書き手の感情を描く記事も増えています。冒頭のカフカじゃないですが、そうした記事の執筆時、他人の目があっては集中できない……!。

だからこそ、多くのライターは家に仕事を持ち帰ったり、残業して深夜帯に集中して書いたりしてしまいます。

私もいっときシェアオフィスに入居していたものの、動くもの音がするものに気を取られすぎてしまって、結局深夜しか使わなくなり、退去しました……(仲間がいることは良かったのですが…)。



専門職としてわかりやすいプログラマーやゲームクリエイター、デザイナーなどの場合、集中させるために隔離環境を作ろう、という流れはある程度ありますが……

カリフォルニア州オークランドのゲーム制作会社〈バックボーン・エンターテインメント〉では、当初オープンオフィス・プランを採用していたが、内向型が多いゲーム制作者たちから居心地が悪いという声が聞こえてきた。

「なんだか大きな倉庫にテーブルが置いてあるみたいで、壁もないし、おたがいに丸見えだった」とクリエイティブ・ディレクターだったマイク・マイカは回想する 。「そこで、部屋に仕切りをしたのだが、クリエイティブな部門でそれがうまくいくかどうか心配だった。ところが、結局のところ、誰もがみんな人目につかないで隠れられる場所を必要としていたとわかった 」

──(『内向型人間のすごい力』3章 共同作業が創造性を殺すとき より


しかし、ライターのために「超集中環境」を提供しているオフィスは稀。

高収入・高待遇な大手テックカンパニーのエンジニアの環境までいかなくとも、「全員喋らない時間帯を決める」「執筆中、他の席と目が合わないようにする」などの環境はすぐに作れます。少なくとも、私はノイズの多い日中のオフィスでは、自分が「傑作だ!」と思えるような文章はなかなか書けません。





イヤフォンを付ける(でも音楽は聴かない)



とはいえ、まずは個人で出来ることを。

集中導入剤として音楽を聴くことはあるのですが(後述します)いざ集中ゾーンに入ると今度は音楽が邪魔になったりもします。私の場合は。

でも外界とは離れたい……! という時、イヤフォンだけつけて、音楽は流さない、という地味すぎる奇行に走っています。

イヤフォンを付けるだけで、なぜか、めちゃくちゃ集中力上がるんですよね……おそらく「話しかけないでくれオーラ」を周囲に放っていることが大きい原因かと思うのですが。

外の音を完全に遮断したい訳ではないので、耳栓よりもイヤフォンがいい。それに耳栓はフワッと柔らかいので、フワッと柔らかいものを耳の中にブニッと入れる行為によりリラックスしてしまい、副交感神経に切り替わってしまう気がするのです。(めちゃくちゃ個人の感想です……笑)

もちろん就業中はイヤフォン禁止の会社も多いですし、就業中に喋りかけやすい空気を作ることを何よりも大切にしている会社もあります。ただ、集中必須の仕事をしている間に、一度でも話しかけられると、またゾーンに入るまでは大きなエネルギーを使わなければならず、これはあまりにも効率が悪い。

「この職種には集中環境が必要だから」
「今は集中しているから」


と、集中を守ってあげる環境は必須だと思います。

ちなみに前職では、猛烈に集中したい社員のために concentrate! と書いた札をデスクに掲げるカルチャーを作ってみたりもしました。その札がある時はゾーンに入ってるので、喋り書けないように気をつけましょう、という。




意識的な集中を作るために


音楽を集中導入剤にする、という話。

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新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。