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先日、現在も劇場にて公開中の映画『リング・ワンダリング』金子雅和監督と「映画にはリズムがある」という会話で盛り上がったのですが、まず映画文法的リズムについてご説明します。
カット割りやカットの長さ、加えてカット尻というカットの切れ目をどこに定めるか、そして編集で繋げてシーンになり、そのシーンには音楽は必要か不必要か…といった一連作業から出来上がった映像には様々な選択から形へと連なる工程があり、この工程で織りなされた映像表現の見え方をリズムと解釈されます。
リズムは作品によって千差万別です。
作品との相性とは、このリズム感が合うか合わないかだとする見解があるのです。
金子監督と「それを作り出すそれぞれの監督の個性ってありますよね」という会話に終始しました。

カットを短くして、切り返しや前後のシーンを交錯させるカットバックを多用する映画にはシーン自体のスピードコントロールが施されているので、主としてアクションを売りにする映画ではそうしたイメージが視聴側でも予測はされます。作る側もその期待に応える構成を意識すると言った方が正しいのかもしれません。ジャンル映画ではリズムという意味での監督の個性を表現するのが、なかなか難しいと思われなくもないのです。

現在、ジャンル映画にほぼ特化したラインナップをメジャーは提供し続け、上映館は主としてシネコンで公開されています。
リズム感覚の尺度を計る作家性を見出すのはミニシアター系に集中せざるを得ないのかもしれません。

カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞で名を馳せたアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の最新作『メモリア』を最近、劇場鑑賞したのですが、精神系SFという言い方が適当かどうかはともかく、ワンカットのリズムがある意味では独特の間で構築されていて、テーマがノイズ的爆音を追い求めていくという設定でかつ抑制的なセリフとアンビエントな劇伴、背景現場音のみの見せ方で、非常に惹き込まれたのですが、これはスリラーそのものだと感じたのです。
カットを激しく割って演出せずとも、スリラー感は描き出せることが分かります。例えばソ連時代のロシア映画の巨匠、アンドレイ・タルコフスキーにも共通する世界観です。タルコフスキーはカットリズムを作り出す効果として、雨や水を巧みに用いて空間と時間を演出していきました。

全ての登場人物と背景を入れ込んだサイズのカットをマスターショットと言いますが、マスターショットからのクローズアップ(寄り)が基本的な編集パターン、オーソドックスなリズムを生み出す基礎的な流れです。
しかし、アピチャッポンもタルコフスキーもそのパターンに頼らず、もっとロングの構図でも人物のアクションを映し、完結させるカット構成を試みたりします。観る人によってはやや睡魔に襲われやすくなるのは、こうしたワンカットの長さに耐えられなくなる時だと思われます。

映画、またはドラマが制作されて歴史を鑑みるにまさに膨大なライブラリーが存在している訳ですが、99パーセントに近い数字でオーソドックスなカット構成、繋ぎから成立しているのは疑いのない点ではあります。
とは言え、作品の中でも名作と云われるものには監督の個性、リズムが間違いなく存在しているのは疑う余地はありません。

自分にとっての心地よさを探す映画の旅をぜひしていただきたいものです。

アピチャッポン・ウィーラセタクン監督最新作『メモリア』
強力なワンカットの魅力、
そして圧巻のラストシーン。
どこか『リング・ワンダリング』にも
似た共通項を感じます。
本年上映の洋画ではワタシの中では
ベスト1だと思います。



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