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「映画の歴史の片隅に名を刻めた」と感無量!『スパイの妻』黒沢清監督凱旋舞台挨拶。

 今週末の映画の話題は『鬼滅の刃』一色だった。スーパーに行っても、突然エンドに『鬼滅の刃』ふりかけやら、お菓子のパッケージに採用されていたり、生活のどこかしこでいきなり目にする感じ。窮状にあるシネコンを救うまさに救世主となっている。

 その一方で今週末公開されたのが、9月に開催された第77回ヴェネツィア国際映画祭で見事、銀獅子賞(最優秀監督賞)に輝いた黒沢清監督最新作『スパイの妻<劇場版>』だ。東京では蒼井優や高橋一生、東出昌大らキャストも参加しての初日舞台挨拶が行われたが、関西には黒沢監督が一人でご来場。しかもお忙しいので大阪は飛ばし、出身地であり、ロケ地である神戸の劇場に足を運んでくださった。神戸のファンからすれば、それはうれしいことだ。

 一昨年のカンヌでパルムドールを獲った『万引き家族』ほどの公開ではないが、濱口竜介、野原位の神戸を舞台にした傑作『ハッピーアワー』コンビが手がけた脚本には、太平洋戦争に突入する直前の神戸の映画文化もしっかりと盛り込まれている。舞台挨拶で黒沢監督が強調したのも、敵国の服を着るなというお達しがある中、神戸の人たちは洋装をし続けたという、常に世界に向けて開かれた精神だった。関東大震災以降、まさに商業や文化の中心であった地域ならではの活気と海外に目を向ける姿勢が、主人公夫婦の運命を皮肉にも変えていく。現代につながる歴史に思いを馳せてほしいという黒沢監督の言葉が、初めて作った歴史映画への強い思いにも重なった。


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