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消費者と酪農の距離、そして「エシカル」は誰の視点か。

酪農と聞いて思い出すのは小学校の頃に体験学習で行った牧場だった。
牧草と獣の匂いが入り混じった独特な空気。
乳搾りした時の柔らかい感触と「本当に牛乳が出てくる」という事実に驚いたあの記憶。

牧場見学したことある人ならきっと多くが持っているであろう。
しかしその多くは体験見学をメインにしたサービス施設であって、一次産業を担う牧場を見たことある人は多くないのではないだろうか。
あるいは、酪農はじめ畜産に対し「非人道的な動物への搾取」というイメージを抱いている人もいると思う。

そういう人こそ酪農という生産現場を見てほしい。

「牛と人の関係」

これに対する消費者と生産者、両者の思いのギャップを酪農の町・北海道中標津に滞在してみて私は強く感じた。

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私が中標津に滞在していたとき、酪農家でもあるゲストハウスのオーナーに誘われて牧場を訪ねた。実に15年ぶりの牧場だ。

酪農というと人々が全て手作業でエサやり、掃除をして…といったまさに牧歌的な暮らしを思う人もいるだろうが、実際のところ産業のテクノロジーはかなり進んでいた。

搾乳はもちろん毛ブラシでとくのも機械化したり、今やAIとセンサーで乳牛の発情期を感知し管理できるシステムもあったりするのでとても驚いた。
しかも牛も「ここに立てば心地よくなれる」と理解して機械を使いこなすときている。
(まぁ、メカニズム理解してなくても機械を活用できるのはスマホいじる現代人と一緒か…笑)

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こうした機械化されている現場を見て、じゃあ牛も生産機同様に扱われているかというと、私はそんなことはないと思っている。

そう思わせたのは、オーナーが牛舎など見せながら話してくれた「中標津という土地ができたのは牛のおかげ」という彼らが受け継ぐ歴史だった。

開拓期、中標津は人間にとって栄養ある作物が採れる場所じゃなかった。
人々が牛を飼うことで牛は周囲の植物を食べ、その牛を頂くことで人は間接的に植物の栄養を摂ることができた。
やがて牛乳を出荷し始め”ミルクマネー"として外貨が入るようになり、町が豊かになっていった。
今でも酪農家は牛を育てて牛乳を頂き、もう出なくなってしまった牛は肉を頂きながら彼らの子孫を繋いでいる。

「人と牛は、共に生かし生かされている」

酪農家全般のことはわからないが、少なくとも私がここで出会った酪農家の方々はこの思いが強い印象を受けた。
別日に参加させてもらった酪農家の方々による小さな飲み会でも、会話の内容はもっぱら「いかに自分は愛情込めて工夫して牛を育てているか」という愛の自慢語り。
毎朝牛たちの名前を呼び話しかけて育てている人がいれば、牛の乳や肉についた評価を自分たちの愛と育んだ努力が現れたものとして誇らしく話す人もいた。

彼らの酪農や牛に対する思いは想像を大きく上回るほどの愛に溢れていて、そこには間違いなく私たち一般消費者が思う生産者と生産物以上の関係性があったと思う。

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畜産について、最近は「エシカル」「アニマル・ウェルフェア」という言葉を耳にするようになってきた。
ベジタリアンの中でも、こういった事情で菜食を貫く人もいる。
詳しいことは調べて欲しいが、行く前はこれについて「実際どうなんだろう」と確かめたい気持ちもあった。
しかし出会った酪農家の方々の話を聞いて、自分の中でイメージが大きく変わった。

先に誤解ないように言うと「家畜が非人道的扱いを受けているというのは嘘だ!」ということを伝えたいわけじゃない。
私が見ていないだけで、そういう畜産現場もきっとあるにはあるのだろう。

ただこの旅で思ったのは、
「消費者と生産者で見えているものが大きく違う」こと

そして「ストーリーは語り部に依存する」ということだ。

「今自分が抱いている考えは、消費者の立場で見える限られた情報でしか語っていないのかもしれない」と一歩引いた目で見てもいいんじゃないかと思う。
第一線を自分の目で見て話を聞いたら考えが変わる可能性は十分あるし、実際そのくらい消費者と酪農は離れていて情報の差がある。
(もちろん酪農現場も消費者側から学ぶべきことはあるはずだ。)

どっちが真実や正解とかじゃなく、主張も解釈も人によって違うストーリーに変わる。
誰が・どの立場の人が語っているのか?を把握して想像し、その上で自分の考えを持てるようになりたい。

そんな消費者と酪農現場の遠さ、そして「じゃあエシカルって誰が語っているんだっけ?」と考えさせられるような
まさに「一次情報を大事にしなさい」という教えを体感した旅だった。

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ちなみに、今回訪問させていただいたのは竹下牧場さんです。

チーズの製造にも取り組まれています。チーズの製造現場も興味深いです。
興味持った方はぜひぜひ行ってみてください。

http://takeshita-farm.jp/

「旅に行けないので、旅の棚卸しをする」#2
2019/03 北海道 中標津



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