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雨の日はシューゲイザーを聴こうよ #おすすめの音楽

 今年の夏も極端な気候が続いて過ごしにくいことこの上ない日が続きますね。猛暑が続いたと思えば断続的な激しい雷雨。実はそんな夏にぴったりの音楽があります。

 それが今回紹介するシューゲイザー。幾重にも重なった轟音のギターは不思議と美しく柔らかく、煩いとは感じさせません。90年代頃に盛り上がったジャンルですが、ロックファンだけでなくアンビエント・エレクトロニカのファンからも長年高い評価を得てきました。また、日本にも名バンドが数多くいるジャンルでもあります。普通に生活しているとなかなか知る機会が少ない尖った音楽ですが、出会いがあれば音楽好きにはその良さがわかるはず。ということで今回はシューゲイザー初心者必見の名盤から最近の注目アーティストまで紹介していこうと思います。

My Bloody Valentine

 まずはシューゲイザーといえばこのバンド、My Bloody Valentineから。アイルランド出身のバンドで、1991年発売のアルバム「Loveless」はまさにシューゲイザーの金字塔。私のシューゲイザーとの出会いもこのアルバムからだったのですが、一曲目の「Only Shallow」がはじまった瞬間の轟音のギターと溶けるようなボーカルは本当に衝撃的でした。

 しかしながら、何度も聴いて耳が慣れてくると意外にもその中にポップさがみえてきます。中でも同アルバムに収録されている「when you sleep」は轟音のノイズを除けば王道ポップソングのメロディーで、弾き語りのカバーもよく似合う曲です。ただ尖ったことをするためのノイズではなく、良い下地があるからこその美しさだということがよくわかります。

 「Loveless」は非常に難産だった作品でもあります。レーベルを潰しかけるほどレコーディングに費用と時間をかけた、メンバーがみなプライベートな事情から精神的に追い詰められる中ギタリストのケヴィンがほぼ独力で完成させたといった逸話もあるので興味がある人はそうした話も調べてみると面白いかもしれません。

Ride

 続いても名バンド、Rideです。シューゲイザーに括られる中では比較的ギターがギターらしい音を鳴らし、リズムが強くロックバンド色の強いサウンドです。アルバム「Nowhere」のこの青いジャケットにつられているのかもしれませんが、My Bloody Valentineとは対照的に暗さ、冷たさ、不穏さも感じるような轟音を鳴らしています。

 このバンドも実はポップなソングライティングが強みで、「Vapor Trail」は特にそれが発揮されたきらびやかで美しい曲です。

Slowdive

 Slowdiveもまた、シューゲイザーを代表するバンドですがm先程の2バンドに比べると歪みは少なく、ダウナーで透明感あるサウンドが特徴です。シューゲイザーというと激しいサウンドこそが本質であり目的であるようなイメージがつきがちですが、Slowdiveの楽曲はまず良い歌モノであり、過剰なエフェクトはあくまで雰囲気を演出するためという印象を受けます。

 最近のインディー・ロック系の中でもドリーム・ポップ色が強いアーティストはSlowdiveからの影響を感じることが一番多いです。インディーロック好きにはとっつきやすいアーティストでは無いかと思います。

きのこ帝国

 ここからは日本のバンドを紹介していきます。きのこ帝国は日本でシューゲイザーと言うと最初に名前が挙がりがちなバンドですが、「猫とアレルギー」のような王道ポップスや「クロノスタシス」のようなシティポップのイメージでいる人からすればここまでのアーティストとはかけ離れているように思うかもしれません。しかしながら、それらの曲と同じぐらい「海と花束」、「東京」のようなシューゲイザーの影響下にある楽曲の評価も高いです。

 あくまでボーカルを中心に据えた歌モノの範疇の中で、良質な轟音ギターを聴くことができる素晴らしいバンドです。

17歳とベルリンの壁

 17歳とベルリンの壁は2013年結成と比較的新しいバンドです。これまで上げてきた伝説的なシューゲイザーバンドからの影響は受けつつも10年代邦楽ロック的に再構築されているような、新しい感覚を持っているような印象を受けます。これほどポップで美しい歌モノでありながらギターでボーカルがほとんど聴こえないというのもまた好きなところです。

羊文学

 羊文学は2012年結成で、年々注目が高まる3ピースバンドです。先日のフジロックにもギターボーカルの塩塚モエカ氏が出演していましたね。

 優しい轟音の中にジャガーの鋭さも生きた素晴らしいサウンドはもちろんのこと、同じくらい歌詞も良いバンドです。憂鬱さを抱えながらもどこか前向きで自然体な言葉は、無理しなくていいと許されたような感覚にさせてくれます。

RAY

 続いて紹介するRAYはなんとアイドルです。私も知人のすすめでアルバムを先に音楽として聴いていて、映像を観た時は本当に驚きました。この曲が収録されているアルバム「Green」はシューゲイザーにありがちな淡い色のジャケットでメンバーの姿は全く写っていません。音源だけを聴くと本当に良質な本格シューゲイザーサウンドなだけに、アイドルファンの枠を越えてロックファンや海外からも聴かれているようです。近年のシューゲイザーに影響を受けた音楽はSlowdive系のダウナーなものが多い印象があったので、マイブラ直系の暖かさを感じる明るい轟音がポップシーンで聴けるのも嬉しいポイントです。

Stargaze Shelter

 Stargaze Shelterは星宮とととgaze//he's meが結成した宅録ユニットです。シューゲイザーの名曲たちだけでなく凛として時雨のような邦楽ロックからの影響やDTM的で従来のバンドとは違ったサウンドメイキングがみられ、ここまで紹介してきた音楽とは一味違います。また、ギターの透明感は圧倒的で溶けるように心地よく、リバーブのフィードバックだけでなくギターの原音すらも幻想的なまでにクリアです。

Death Of Heather

 最後はタイのバンコク出身のバンド、Death Of Heatherです。イントロからマイブラ直系の轟音が響いてきてシューゲイザーファンとして歓喜しましたが、ボーカルが入ってから気づくのは透明感あるサウンドも得意だということ。その落差がダイナミックな印象を与える壮大なイメージの楽曲です。また、美しいコーラスワークもとても魅力的です。

 私は他のnote記事でもいくつかタイのバンドを紹介していますが、タイのインディーシーンは台湾などと比べそこまでドリーム・ポップやシューゲイザーのバンドが多いイメージはなかったのでここまで直球にシューゲイザーなバンドが出てきて嬉しい限りです。

おわりに

 ここまで9組を紹介してきましたが、シューゲイザーの良さを伝えることができたでしょうか。シューゲイザーはジャンルとしての線引が曖昧で様々なバックグラウンドを持ったバンドを雑にまとめてしまうという側面もありますが、私はこの轟音に包まれる心地よさという一点のみに重きをおいて聴くだけで十分だと考えておりあえてジャンル成立の経緯には触れずにここまで書いてきました。最初は衝撃的なサウンドなだけに、純粋な音楽としての良さや奥行きにもぜひ気づいてもらいたいと思っています。

 個人的な感想ですが、「シューゲイザーは日本の夏に似合う」という勝手なイメージがあります。もともとUKを中心としたムーブメントだったので湿気の多いイメージはかなり一般的だと思うのですが、ある時家から夕立を眺めていてこれはシューゲイザーだ!と思った瞬間があったんです。思えば激しい雨が地面を叩く音や遠くの雷鳴ってシューゲイザーっぽくないですか?わからない?そうですか……。そういえばブライアン・イーノが雨の日に病室で壊れかけのプレイヤーから小さな音量で流した音楽が外の音と偶然マッチしてアンビエントを思いついたみたいな逸話がありますが、それに近いものなのかもしれません。思いつきで雨が降りそうな曇り空の日にスピーカーでLovelessを流したらいい雰囲気になったので、この話に共感してくれた人はぜひ試してみてください。

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