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“企業柄” のデザインは、思考過程の共有と対話から生まれる。ACESロゴリニューアルの裏側

企業のアイデンティティを表す存在として、ロゴは欠かせません。

ロゴは企業の顔です。

ロゴには、人柄ならぬ「企業柄(きぎょうがら)」を表し、正しく伝える役割が求められます。そのためには、アイデンティティの正しい理解と翻訳が必要です。

アイデンティティとは、企業の思想の堆積だと考えています。そして、私たちデザインファームCIALではその思想の堆積を表現に落とし込むことを大事にしています。

それではパートナー(CIALではクライアントのことをパートナーと呼んでいます)の伝えたい企業柄を、パートナーとデザイナー双方が納得するビジュアルに落とし込むにはどうすればいいのか。

このnoteでは、CIALがロゴデザインから名刺やウェブデザインまで関わらせていただいたACESの案件を事例に用いて、パートナーの目的に資するデザインの作り方について考えます。

リニューアルで目指したのは、「信頼感」づくり

ACESは「アルゴリズムで、社会はもっとシンプルになる」というミッションを掲げ、画像認識を中心としたAIアルゴリズムを用いてリアル産業のDXを推進し、シンプルな社会の実現を目指している会社です。

起業家を何人も輩出している東大の松尾研究室に在籍し、機械学習を用いたFacebook広告の最適化や深層学習と金融工学の掛け合わせの研究を行っている田村浩一郎さんが2017年に立ち上げました。

2020年の東洋経済「すごいベンチャー100」に選出され、電通やテレビ東京、Zoffといった名だたるクライアントと仕事をしている同社ですが、依頼を受けた2019年時点ではそうした取り組みは多くありませんでした。

ACESは代表の田村さんを始め、修士・博士課程に在籍中のメンバーも複数います。そのため、技術力には信頼がある一方、「学生がやっているスタートアップで大丈夫なのか?」という印象を持たれることもあったそうです。

企業としての信頼感を向上させ、プロフェッショナルな企業だと印象づけることが、ロゴデザイン刷新の一番の目的でした。

ACESの考える「信頼感」や「プロフェッショナリズム」をビジュアルに落とし込み、納得感のあるアウトプットにするためには、まず「ACESとは誰か?」を理解する必要があると考えました。

そこで、私たちはまず「ACESさん」という人格を作るところから始めました。

もしも会社が擬人化したら

人格を作る上で私たちは言語と視覚、両側面で輪郭を見つけていきます。前者は「ブランドパーソナリティ」と呼んでいるシートを、後者は「ムードボード」を作ります。ブランドパーソナリティを作る目的は関わる人が企業に対し持っているイメージのすりあわせと具体化です。

もし「ACESさん」という人がいたら、どんな顔や声、服装をしているのるか。周りからはどう思われているのか。大切にしている価値観は何かなどを書いてもらいます。

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(コンプライアンスのため一部ぼかしをいれています)

ブランドパーソナリティを完成させる上で大切にしているのが、項目一つずつに対し、私たちも外から見たイメージをフラットに伝えること。中と外のギャップの認識が、どんなビジュアルに落とし込むかの方向性を決める一つの鍵となるからです。

今回は私たちがファシリテーションをしながら、創業メンバー全員と一項目議論しながら埋めていきました。ACESの場合、各メンバーの考えているイメージは比較的一致しており、私たちもすんなりと「ACESさん」のイメージの輪郭を得られました。

企業様によっては、メンバー間で持っているイメージがずれている場合もあります。その際は、「その言葉を選んだ理由はなんですか?」や「それはどういうシーンで感じますか?」といった問いを投げかけ、そう考えた源泉を探るようにしています。

ムードボードはACESとCIALのメンバー双方でイメージをあげ、どれが良いか投票を行い、認識のすりあわせを行います。

選ぶ際は「実在の人物でたとえると誰になりそうですか?」といった問いを投げかけながら、幅広いバリエーションをだしてもらいます。

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(実際に使ったムードボード)

ビジュアルの提案こそ、ロジカルに伝える

方向性が決まったら、情報を元にビジュアルに落とし込みます。

ビジュアルでの落とし込みは、まず大きな方向性の検討からはじめます。

人格の規定は、アンチパターンを取り除く作業でもあり、イメージと大きく違うアウトプットの防止になります。一方、ベストなビジュアルを決めるには、まず考え得る範囲内で振れ幅を持たせた提案をして、徐々にイメージをすりあわせて行きます。

最初の提案では二つのパターンを用意しました。

A案はビジョンから落とし込んだもの。B案は自社の動画像認識サービス「SHARON」から着想を得たもの。(本記事では、A案のみビジュアルを紹介します)

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(一番最初の発想の元になったスケッチ)

私たちは提案の際、背景をロジカルに伝え、何を検証したいのか判断基準を明確にすることを大切にしています。

ビジュアルをアウトプットだけで判断しようとすると、ともすると感覚的な意志決定になってしまいます。そのため、提案のゴールと、結果に至った思考の過程を、段階立てて説明するようにしています。

例えば、初回であれば、形のコンセプトの検証がゴールと伝えます。そして、A案であれば、ビジョンから着想を得ている前提を共有し、「アルゴリズムで、社会はもっとシンプルになる」というビジョンを「社会が含む複雑性を、一本の線で、解きほぐしていく」と解釈。「シンプルさ」を一本の斜線で、「複雑性」を重なり合う幾何学の造形で表していると説明します

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(A案のコンセプト画像)

そうすると、選ぶ側も「あ、今回は形のコンセプトについて考えれば良い」と判断基準が明確になります。判断基準を提示され、決めることに対して議論を行うためビジュアルへの納得感も生まれます。

「ロゴの変更は、会社が作る未来の方向を決めること」という田村さんの意志に基づき、A案をベースとして細部を詰める段階へと入っていきます。

そのロゴは、相手の手に馴染むか

細部を詰める作業は、まずシンボルを構成する幾何学模様や文字のデザインから行いました。

どの段階でも大切なのは、お互いに納得感を持って方向性を決めること。この段階であれば、シンボルの構成要素と文字のデザインが決めるべき項目であり、それ以外は次の段階で決定します。

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(シンボルのバターン)

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(文字デザインのパターン)

シンボルや文字のデザインの方向性が決まった後は、ブランドパーソナリティを念頭に起きつつ、「余白のバランス」、「色味の微調整」、「カーニングの調整」、「拡大・縮小した際の見え方」など、細かい調整に入ります。

ACESの場合、

・ブランドパーソナリティの「声」の項目に「ハッキリとしている」という性質がある」
・ブランドパーソナリティの「顔」の項目に「端正な顔立ち」という性質がある

といった観点から、曖昧ではなくパキパキとした印象を出す方向性と仮説立てて進めていきました。

細かい粒度の調整の合意が取れた後は、フルカラー/カラー1色/墨1色、背景白/透過など、全ての色パターンの作成や、名刺やノベルティに転用した際のイメージなどを作ります。

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(ノベルティへの展開パターンイメージ)

このとき、田村さんから「CIALさん的にはミニマルな方が良いと思うのですが、4,50代の人もよく目に触れる可能性があるので、ぱっと見での視認性をあげて欲しい」という提案がありました。

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(名刺のイメージ)

このフィードバックはCIALとしてはとてもありがたかったです。提案したデザインが目的に資するものでなければ、デザインとしての機能が果たせているとはいえません。自分たちの視点だけでは得られない要素は、積極的に取り入れたいと考えています。

ロゴは最終的にはパートナーが使うものであり、私たちのアートではありません。パートナーの手に馴染むのが第一。だから、自分たちの表現を押しつけず、あくまで相手の内側から出てきたモノを形にしているだけ、という意識が納得感のあるデザインを作る上で欠かせないと考えています。

納得感のあるデザインは、対話から生まれる

こうしてロゴデザインが完成しました。

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(トーンの調整前 / 後との比較)

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(タイポグラフィに込めた意味)


無事ロゴを作り終えることはもちろん大切です。ただ、それ以上に、元々の目的、今回であれば「信頼感」や「プロフェッショナル感」のある企業としてのイメージを定着させることができたと言えなければ、大成功とは言えません。

ロゴを作り替えてから1年。社内外にどのような影響があったのかを田村さんに伺いました。

田村さん:まず、デザインの変更を通じて、社のイメージが研ぎ澄まされたと感じています。最初に作ったロゴは、まだ事業の方向性も固まっていない頃に友人に依頼して作ったものでした。期間もなく、まずは形あるものを作ろうという目的だったので、ある意味で当時の会社の『こだわりのなさ』がロゴに反映されていたと思います。

今は事業の方向性が決まっているので、それを体現するロゴが必要であり、その目的を達成していただいたと思っています。

社外からの評判もいいんですよ。初対面の方に名刺を褒めていただいたり、大手広告代理店の方にも『デザイン、かっこいいですね!』と言われたり。

TwitterでロゴをあしらったTシャツを披露したときの反応も良かったです。『信頼感』や『プロフェッショナル感』の醸成という側面でも、大企業からの依頼が増えている背景から、目的を達成できていると考えています。

もちろん実績ベースでの信頼もあると思いますが、デザインから私たちのこだわりやプロフェッショナリズムがにじみ出て、良い第一印象としてお伝えできているではないかと思います。

私たちは納得感のあるデザインを作る上で、提案の度に持って帰って検討してもらうのではなく、その場で対話をして、どの方向性が良いかを決めることを心がけています。

その場で議論するのは、パートナーが考える過程も大事にしているからです。検討過程が見えないと、結果だけを受け取ることになり、逆に私たちにとっての納得感が薄れてしまいますし、ともすると受発注のような関係になってしまいます。パートナーにとっても説明の無い提案には納得感はないでしょう。

今回、目的に資するデザインを作れたのも、対話プロセスを丁寧に育み、それにACESの皆さんが覚悟を持って向き合ってくださったからだと思っています。

ロゴは企業の顔。私たちも自分たちの企業のCIをデザインしているという覚悟で取り組んでいます。だからこそ、作るプロセスと同じくらい、対話プロセスを大切にしていますし、これからも変わらず大切にしたいと思っています。

P.S

CIALでは、コーポレートアイデンティティやブランドアイデンティティを共に作る企業からの相談をお受けしています。ご興味のある方は、下記フォームより是非ご連絡ください。

編集・執筆 / イノウ マサヒロ


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株式会社CIALは、企業活動やブランド展開の軸となるアイデンティティのデザイン、それを元にしたWeb・グラフィック・パッケージ・空間などの展開物のデザインを行っています。また、自社事業としてコーヒーブランド「MATERIA」の企画から販売までを手がけています。

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