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ベビー用品店の店長29歳。幸せを生む言葉掛けとは

 ベビー用品店「リシュマム」(広島市西区)の店長、伊藤梓さん(29)に、接客で大切にしているルールなどを聞きました。(聞き手・山川文音、写真・河合佑樹)

伊藤さんってこんな人
広島市生まれ。安古市高、広島市立大を経て、2015年に手作り雑貨や古着を販売するリシュラへ入社。3年目に広島市の雑貨店リシュリシュの店長になり、2020年7月からリシュマムで店長を務めている。

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いつもネイルをしているそうですが、なぜですか。

 商品を手で持って紹介することが多いからです。爪は常に、お客さまの視界に入りますよね。よく選ぶ色は白やグレー。接客の邪魔にならない色にしています。
 リシュマムでは赤ちゃんや幼い子ども向けの衣料品やおもちゃ、雑貨を扱っています。自社で手作りしている商品は、柄もかわいい生地を使っているんです。お客さまにも、生地の質感や柄を近くで見て触ってもらいたいなって。私が触りながら説明することで、説得力が上がるというか。ぱっと見では気付かないような商品の魅力を伝えたいんです

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 爪がきれいだと、自分の気分も高まります。週に2回くらい、お風呂上がりにオイルで手のマッサージをして塗り直すのが心の栄養になってて。細かい作業が多いので、集中することで無になれます。手もほぐれて、きれいになったのを見ると気持ちいい。社会人になってからずっと、爪は塗っています。

ネイルは自分の気分を上げるルーティンなんですね。接客でほかに大切にしていることがありますか。

 お客さまに声を掛けるときの言葉の順番です。最初に「お店で一番人気なのは」とか「ママさんが実際使えると言ってくださったのは」といった感じでその人に一番響く言葉を出して、その先が気になるように話します。「下見に来ていたのに思わず買っちゃった」と言ってくださった方もいました。

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 就職活動を始めた当初、自分が何が好きか考えたんですけど、全然やりたいことがなくって。土日休みの会社が良いなあ、くらいしか考えていませんでした。ある日ふと、就活サイトでリシュラを見つけて「思い出づくりのお手伝い」という会社のコンセプトにすごい引かれたんです。

 学生時代にコーヒーチェーン大手でアルバイトをしてたんですけど、うれしい気持ちや日常の安らぎをお客さまに与えられるのが楽しかったんです。リシュラもそれと似てるな、と思って。私自身も買い物に行って店員さんによくしてもらうと、すごく幸せを感じるんです。それをできる人になりたいと思いました。

人と人とのやりとりって、ちょっとしたことが大切ですよね。

 そうですね。店長なのでスタッフとのやりとりも大事です。特に、注意しないといけないときは気を使います。意識しているのは、声を掛けるタイミングですかね。注意って、鮮度が大事なときと、時間をおいて言った方が良いときの2種類があると思うんです。

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 例えば「レシートをお返しします」は「お渡しします」の間違いですよね。本人は無意識に使って習慣になっているかもしれない。こういうケースはすぐに伝えるようにしています。

 逆に、その時ではなく時間をおいてから声掛けする場合もあります。例えば、仕事の優先順位の付け方は人によって違いますよね。ただ、明らかな間違いではないけど、別の方法をとる方が効率が良いと思うこともあります。そんなときは、自分の中でいったん考えを整理してから「こうやった方がメリットが多いよ」と伝えるようにしています。

臨機応変に対応しているんですね。店長になってから、苦労もあったんじゃないですか?

 最初の1年は分からないことが多い中で、急に売り上げの責任を持つことになって大変でした。業務量も増えて、売り上げ管理やシフトの作成、販売計画作りなど、前年を倣うのに必死でした。
 いつも寝る前に書いている「5年日記」の中にも「いちばんへこんだ」と書いたエピソードがあります。店長になったばかりの2017年11月8日。この日は、思うように売り上げが伸ばせない自分が悔しくて泣いた日でした。

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 「こういう商品があったら売れるんじゃないかな」とか「こんなワークショップがあったらな」とか、アイデアはいろいろあったんです。でも、それは余裕ができて初めて手が付けられるものなので‥。

 つらいときは他の店長に相談したり、家族に話をたくさん聞いてもらったりしました。店長になった2年目くらいから、自分がやりたいことと、できることがマッチするようになってきて。そこからは仕事が楽しくなりました。

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 泣いた日から3年ほど後の日記では、当時を振り返る内容を書いています。良い業績の報告ができて、これまで励ましてくれた上司から「成長したね」と声を掛けてもらった、と。日記を読み返すと、「あ、こんなに成長できたんだな」と過去の自分に勇気をもらえるんです。

 書き始めたのは25歳の頃。5年後は30歳だなって思って。一つの区切りとして、それまでに人生で何が起こるかを残しておきたかったんです。今年の12月31日で書き終える予定なんですけど、読み返すと自分の人生がより好きになりました

最後に「部屋に花を飾る」というルールについて教えてください。

 今年から1人暮らしを始めたのをきっかけに、部屋に花を飾るようになりました。仕事帰りに職場の近くにある花店に寄って、お気に入りの一輪を選びます。花は私にとって「お守り」のような存在です。選ぶときは、季節や見た目だけではなく、花言葉も重視しています。

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 好きな花は「家族だんらん」という花言葉を持つアジサイ。他にも「活力」という意味があるススキ「思いやり」のチューリップなど、前向きな言葉の一輪を選んで部屋に飾ります。毎朝水を替えて、日々の成長を感じるのが楽しくて。
 1人暮らしを始めるとき、花好きの父方の祖母が、黄色のチューリップを買ってくれたのがきっかけでした。がらんとした部屋に花が一輪あるだけで元気が出るんです。枯れてしまうので、何かないと寂しいなと思って飾るのが習慣になりました。

自分を元気づける習慣なんですね。1人暮らしも始めていろんなことに挑戦する中で、伊藤さんの今後の目標ってありますか?

 リシュラには、思い出の洋服を日傘やアルバムに作り替えるサービスがあるんですけど、この事業を大きくする仕事に携わりたいです。

 私自身もこのサービスを利用し、亡くなった母方の祖母のブラウスをアルバムにして祖父に贈りました。よく2人で旅行に行っていた祖父と祖母。思い出の写真を入れてプレゼントすると、口下手な祖父は「懐かしいなあ」と言ってずっとアルバムを眺めていました。

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 学生時代の部活のユニホームや子供が小さい頃に着ていたTシャツ、海外の旅行先でお土産に購入した布―。一人一人の人生に大切な人や思い出があると思います。形に残すことで自分を見つめ直したり、元気づけたりするきっかけになるんじゃないかなって
 「思い出づくりといえばリシュマム」と思ってもらえるくらい、もっとたくさんの人に店を知ってほしいと思っています。