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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.06

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.06
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 医長


 今回は2019年の12月号です。

 さあ今月の「何読み」です!
今号の特集は、・・・「内科と救急医療」です!

 パラ見しましたが、私的な特記事項は特にありませんでしたので早速「どこ引き」に参りましょう。

 ちなみにどこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、「何読み」の中のメインコーナーになっております(というかまだこのコーナーしかないじゃん・・・)。

「どこ引き」というのは、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、

青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ

 で塗り分けるのでした。

 さあ始めますね。
 今月号も3例ありました。

■p2524, ウシの生肝喫食禁止後に国内で感染したトキソカラ症

 まずこれです。

 タイトルの通り、ウシの生肝を食べて感染したというものなのですが、2012年7月以降、生食用牛肝臓の販売・提供が禁止されていたそうです。
それなのに感染した、という盲点的なところを突いたのがこのケースのポイントでしょうか。

 新年1例目なので、私が青マーカーを引いたところに太字にしてみました。参考にしてみてください。

 症例ですが、26歳の女性が、発熱と下腿浮腫、両側前腕の発赤で受診しました。1週間くらいの経過です。
 診察時は、主訴になった症状はなく(それって主訴?)、手指の腫脹があったようです。
 そして採血で、白血球14,600に対し、好酸球12%で1,740個。CRP 1.43 mg/dl。

 私なら、ここまでではあまり動けませんし特に思考を進めません。
 しかし、胸部単純X線で数カ所結節影がありました。1個1個はあまり大きくないです。これは気に留めます。
 実際の症例でもCTは撮られていて「全肺野に散在する結節影」と記述されています。

 経過記述では、10日後に好酸球が10,413個まで上昇したとあります。これはさすがに有意な変化ですね。精査入院になっています。内視鏡、心エコー。特に異常ないとのことです。
 CTが再検されています。
 すると、前回の結節影は消失、しかし新たな結節影が出現。なかなかに興味深い経過です。この時点ですぐ思いつく病気はありません。

 症例、症例経過としては大変興味深いのですが、「記述」としてはここからが面白くありません。この後は、

「病歴再聴取」→「半年間で2回、ウシの生肝喫食」→「トキソカラ疑う」

 と随分さらり。


 このあたりのリアルが本当は知りたいんですよ~(一応論文だからしょうがない)。
 私なら、移動・消退・出現する両側肺の結節影を実際にみたらどう考えるかな~って思ってみるわけです。
 これは、症例報告を読むときに、本来やるべきことなのだと思っています。

 さあ、私の「稀な多発結節影」の鑑別リストは以下です。「私の」です。


 私の「稀な多発結節影」の鑑別

・ 肺クリプトコッカス症
・ 肺動静脈瘻
・ IgG4関連疾患
・ ウェステルマン肺吸虫症
・ 肺梅毒


 この後のやり方(進め方)を教えます。門外不出、大サービスですよ?
 まず上記リストのように、「自分の」軸となるリストを持っておくのです。
 網羅するリストではありません。
 なぜ網羅しておかないか。
 忘れるからです。
 かえって取りこぼすからです。

 例えばクリプトコッカスかな~と思えば、通常、普通の人はならないですから、HIVを意識して性交渉に関する問診をします。
 肺梅毒は激レアですが、問診としては兼ねられますね。

 肺動静脈瘻なら、移動したり消えたりしないかな~と思います。

 IgG4関連疾患は若い人はまずないな~と思います。

 ウェステルマン肺吸虫症は、モクズガニみたいな淡水産のカニ、そしてイノシシの肉。つまり“変わった”喫食歴を聞くわけです......

 うーん、自信はないですが私ならここでそのウシの生肝とやらにたどり着くかどうかですかね。微妙なところです。
 喫食歴の問診というのは難しいんです。本人は当たり前と思ってますし。

 以下、ピンク蛍光ペンの内容になりますが、
 トキソカラは、本邦ではニワトリやウシの生肉・生肝からの感染が多いとのことです。
 治療はアルベンダゾールを4~8週、副作用は肝障害。
 それでダメならイベルメクチンだそうです。

 好酸球増多の鑑別に毎回トキソカラを考えるわけには行かないと思うんですよね、実際。
 もっと胸部異常とか、喫食歴からくる鑑別について深めても良かったかなと思った症例でした。そこだけちょっとしみじみしました。
 全体的に公衆衛生的なまとめになっていました。

 1例目は、以上です!


■p2531, 心窩部痛を契機に発見された大網原発Castleman病の1例

 さて「どこ引き」の2例目です。

 このケースは・・・・
「勉強になりました!」
と言う前に、読んだ私のありのままをレポートしますと、


タイトル読む
  ↓
ほう、ふーん!と思う
  ↓
普通は縦隔とか肺門だけど大網? 聞いたことないな、何%くらいだろ
  ↓
(該当部分を真っ先に探す)
  ↓
(発見!)3.2%
  ↓
   終 了

 ......という具合でした。
 ケースレポートってこうやって読むんですよ(違

 これだとすぐに終わっちゃうので、青蛍光ペンしたところを紹介します。

・ 29歳男性
・ 受診6ヶ月前に心窩部痛
・ IgG 1417、LDH 156、ALP 191、CRP<0.02
・ 超音波:腹部大動脈左側に径3 cmの類円形の内部均一な低エコー腫瘤
・ FDG-PETでSUVmax 3.8
・ 病理で、”hyaline vascular type”のUCD(unicentricのキャッスルマン病)と診断

 このあたりですかね。
 ポイントは、MCDつまりmulticentric の多中心性のキャッスルマン病と全然病像が違うという点です。
 全く違う病気と考えていいと思います。私はそう考えています。

 この症例報告の「経過」の記述はすごいですよ~ しみじみを通り越して笑ってしまいました。この画像をみてください。

画像1

 この写真は、「ピンク蛍光ペン」を撮影してアップしようと思ったら、偶然この症例の「臨床経過」の部分が写り込んでしまったものです偶然に。
 先ほど示した臨床情報が提示された上で、ご覧のように「“第一に”限局型Castleman病/UCDを疑った」という記述が何の断りもなく突如みられます!

 ここ、何度読んでもしみじみしてしまいます......「第一」ってどんな名医やねん。。

 違うんですよ、ちゃんと考察で「極めて稀」「悪性などと鑑別困難」とか書いてあるんですよ......。

 すごいっすね!!
 2例目は以上です!!


■p2539, Listeria monocytogenesによる経カテーテル的大動脈弁留置術後感染性心内膜炎を契機に大腸癌の診断に至った1例

 では、気を取り直して今月の最後の症例です。
 この論文は、タイトルが、そのまんま内容を示しています。気持ちがいいですね。

 (本文を読まずに)タイトルだけで、考察の論点が作れてしまいます、ね?

① 経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)後の人工弁感染性心内膜炎(IE)
② IE起因菌としてのListeria monocytogenes(noteではイタリック表示できないらしいです......)
③ Listeria monocytogenesによるIEと大腸癌

 の論点が導けます、よ、ね?
 この①~③は本文からの引用ですが、これはタイトルの構成要素である「Listeria monocytogenes」「TAVI」「人工弁IE」「大腸癌」の組み合わせをいじるだけで作れてしまいますよね。
 なんかパズルみたいで面白いですね。
 ワークショップみたいです。ワークショップ知らんけど。

 あとは、本文を読んでね......で終わりたいんですが一応紹介しますね。

 TAVI後1年、83歳の男性が3日前からの発熱で救急受診。そこで心エコーで人工弁に疣贅が見つかりました。

 以上!
 よし!

 早いですよね~。だから記述が考察中心になるんですよね。
 以下、考察論点に沿って簡単に述べます。

① → TAVI後の人工弁IEは2年後が多いらしいです。この症例は1年。文献的には「TAVIをしたから」IEが増えるということはないらしいです。従来の人工弁くらいのリスクらしいです。

② → これはしみじみしてしまったのですが、何と、IEの起因菌全体のうちリステリアIEの占める割合が......載ってない! これには驚いて、つい一生懸命探してしまいました。菌の一般論、エントリー、治療についてのお話でした。

③ → こちらは安心の内容でした。「リステリアIEでの消化管腫瘍の合併率は50%と非常に高い」との記載が文献付きで載っていました。しかもリステリアIEの文献について収集されており、自作の表が作成されています。これはかなり質が高いので、全国の「ナイスな図表コレクター」の皆さん、必見ですよ! 見逃してはいけない表です。

 考察③の中では、そもそもIE患者全体で8%に悪性腫瘍があったという文献も紹介されていました。さすがにIEをみたら消化管悪性腫瘍を探せとルーティン感をもっては言えないけれども、リステリアIEをみたなら消化管精査に値するだろうという結論でした。私もそう考えて良いと思いました。

 さあ、最後。
 ではこの症例でなぜ、大腸内視鏡をすることになったか。
 ぜひ、知りたいですよね~。

 記述では、「Listeria monocytogenesは、腸炎等、消化管感染を生じる菌であるため、入院10日目に上部及び下部消化管内視鏡検査を施行したところ~」とありました。

 この論筋はさすがに優等生すぎませんか。
 多分嘘でしょう(失礼)。

 おそらくですが、初診時のHbが8.4 g/dlと低く、だからやったんでしょ......。
 入院後に貧血というプロブレムリストに対するプランとして内視鏡オーダーして、その実施がちょうど入院10日目だったとみた。

それで、
 「あ、大腸癌やん......」

 となったのでは。
 ......新年から大変失礼なこと(想像)を述べて終わりです!(しみじみ)


それでは今日はこの辺で!

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