見出し画像

呼吸器感染症よもやま話(30)

[第30回]水道水を抗酸菌染色したらどうなる?

倉原 優 くらはら ゆう
国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科

(初出:J-IDEO Vol.6 No.1 2022年1月 刊行)

退院できない結核患者さんが編み出した「裏技」

結核患者さんは,喀痰の塗抹あるいは培養検査が連続3回陰性にならなければ退院できません.空洞を有する症例や,もともと塗抹の菌量が多い場合,2ヵ月を超えて入院することはザラにあります.長期入院になるとストレスを感じるのは当然ですが,喀痰を出しても唾液を出しても塗抹陽性になるもんだから,しびれを切らした結核患者さんが水道水を喀痰検査の容器に入れる事例がその昔ありました.
 「ウッシッシ……さすがに水道水で塗抹陽性はないだろう」と思っていた患者さん.しかし残念ながら塗抹陽性で返ってきました.「そんなバカな! あれは水道水やで!……あっ」と口を滑らせてしまい,唖然とする主治医.
 水道水を抗酸菌染色したら陽性になることがあるのは,抗酸菌診療医にとって常識的なことです.実は水道水には抗酸菌が含まれることがあるんです.代表的なものは,Mycobacterium lentiflavumです.Runyon分類Ⅱ群に分類され,実際に感染事例もチラホラ報告されているようですが,呼吸器系検体から同定されるもののほとんどがコンタミという印象です.そのため,喀痰の抗酸菌培養検査でこれが検出された場合,喀痰検査を行う前に水道水でうがいをしていなかったか確認する必要があります
 この抗酸菌以外にも水道水からの検出が起こり得る菌としては,M. avium complex,M. kansasii,M. xenopi,M. terrae,M. gordonae,M. paragordonae,M. fortuitum,M. mucogenicum,M. porcinum,M. simiaeなどがあります.

ここから先は

1,123字 / 2画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?