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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.08

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.08
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 医長


 今回は2020年の2月号です。

 今号の特集は......「令和時代の心不全診療」です!
 最近自分の書籍(新刊!!!)の校正やらなんやらであまり読む時間がありませんで、今回は早速......

 「今月の症例、どこに線を引きましたか?(どこ引き)」に参りますね。

 ちなみにどこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、「何読み」の中のメインコーナーになっております。

 「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、

青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ

 で塗り分けるのでした。

 今月号は3例ありました。1例ずつ見て参ります。

■p265, HELLP症候群に伴う急性肝不全に血漿交換とステロイドパルス療法が著効した1例


 皆さん、HELLP症候群の「治療」って知っていますか?

 「妊娠の終了」なんです。

 疾患の定義は“HELLP”そのままでして、
H:溶血(hemolysis)
EL:肝酵素上昇(elevated liver enzyme)
LP:血小板減少(low platelet count)
です。

 ところでこれって要するにTMAじゃない? と思った人~?
 はい、私と同じです。

 TMAはthrombotic microangiopathyの略で血栓性微小血管障害症と訳されることが多いです。
 TMAという語が受け入れにくいold世代にはTTP(血栓性血小板減少性紫斑病、thrombotic thrombocytopenic purpura)を思い出せばいいでしょう。
 まあ、それでいいんですが、「紫斑」なんて探したってどこにもないですよ?

 TTPについては、内科学会雑誌のこの回などおすすめです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/103/7/103_1613/_pdf

 さて、ちょうどこの中にTMAの原因がリストされています(表1です)。
ここにTMAの病因として「妊娠」があるんですね~。

 妊娠によるTMA

 これでスッキリ。
 な、はずなんですよね~普通。なんでそうならないんでしょうね~。
 私のセンサーがびんびんしてます。
 でも時間ないから今は掘り下げません。

 上記のTTPの総説の本文の中には、

(HELLP症候群の)の診断基準を満たし,かつ,妊娠高血圧症候群を合併している症例はHELLP症候群と診断し,それ以外をTTP 疑い例とするのが無難であるが,正常血圧でもHELLP症候群を発症することがあるので注意する.

 歯切れ悪っ。
 無難って......。

 これは「HELLP」を残したい一群がいるに違いありません。助けて~。
 若い世代よ、立ち上がれ!

 今回の症例は、HELLP症候群(おそらくTMA)が進行し重症化し、急性肝不全の診断基準を満たしたのでそれに準ずる治療を集学的に行って治った!

 というものです。
 私、古き良き学会発表や症例報告を思い出してしまいました。

 「HELLP」で切れば。
 妊娠終了で普通は治るはずの(いわば軽症の)HELLP症候群が重症化して、それにステロイドパルスを要した・行って軽快した、というのは物珍しいのかもしれません。

 しかし、「妊娠TMA」として切れば。
 原因を除去し、血漿交換やパルスで乗り切るっていうのはTMAマネジメント上ほぼ常識(特に波風立てるものでもない)なわけで。

 HELLP症候群という、eponym的な、発見者による命名をrespectする時代は終わりましたよ。
 「IgG4関連疾患」みたいに、素直な病態名に置き換えるのが無難です。

 國松「それでも高安病はあります!」

 ......1例目は、以上です!(STAP感)


■p273, Corynebacterium ulceransによる偽膜形成咽頭炎

 さて「どこ引き」の2例目です。

 このケースは『稀な病原体』による『特徴的な身体所見(咽頭後壁の黄白色の偽膜様付着物)』を呈したという症例で、『咽頭炎という極めてありふれた症候』の中に紛れることを示した重要な記録となっています。

 あ! もうエッセンスを言ってしまい、言うことがなくなってしまいました。
 こういう、私が今示したような『 』の中の事柄は、症例報告を書く・読む上での「構造」として意識するために重要です。
 ケースの認識に「構文」があるイメージです(伝わらんか......)。
 臨床でもこういうことを意識すると、学びが多いんです。
 漫然とみずに、常に目の前の症例の全体の中の立ち位置」というのを意識しましょうね。

 さて、本症例でもそうですが、この病原体のリザーバーとして猫や犬が重要ということだそうです。

■ 長年ネコを6匹飼っている
■ 症状発症の数日前に1匹のネコがくしゃみをよくしており、動物病院に連れて行った

 という問診事項が記述されており、深いネコ愛を感じさせます。

 C. ulceransやC. pseudotuberculosisは、C. diphtheriae groupに分類され、ジフテリア同様ジフテリア毒素を産生し、ヒトにはzoonosisとして ”diphtheria-like disease”を起こすそうです。

 いま世界中で、こうしたdiphtheria-like diseaseが散発しているそうです
治療はマクロライドやペニシリン。

 咽頭をみたときにこの所見をみたら思い出しましょう、という症例にしておきました。

 2例目は以上です!


■p282, 関節症状を伴わずに発症したリウマチ性髄膜炎の1例

 さて「どこ引き」最後の3例目です。

 タイトルにご注目ください!

 リウマチ性髄膜炎

 みたことがない(自験例がない)ので、よくわからないので、私見・コメンタリー的な記述は今回避けときますね(逃げたな)。

 よく知られている抗CCP(しーしーぴー)抗体は、日常的にはCCP(しーしーぴー)、CCP(しーしーぴー)などと呼ばれることが多いですが、玄人はanti-cyclic citrullinated peptide antibodyACPA)と呼びます。

 そう、ACPA(あくぱ)です。

 ACPA(あくぱ)、ACPA(あくぱ)って言うと、すんごくその場の雰囲気が玄人っぽくなるので積極的に使うことをお勧めします。

 「その人 ACPA(あくぱ)陽性だっけ?」

 などと院内PHSでしゃべってみましょう(大きめの声で)。

 ......さてリウマチ性髄膜炎では、髄液中の”ACPA index”が上がるそうです!

 疑い方は、リウマチ患者あるいはACPA陽性者の、進行性の神経巣症状。
髄液は軽度の細胞増多と、中等度以上のタンパク上昇。

 MRIが特徴で、軟膜のガドリニウム増強効果を伴う大脳半球のくも膜下腔のFLAIR高信号病変
 加えて、典型的にはその一部が限局性に高信号化する拡散強調像

 前者の病変は割とびまん性のパターンをとります。びまん性と言っても大脳じゃないですよ。軟髄膜です。

 だから、この症例でもそうですが、硬膜下膿瘍に見えてしまうようです。
 だから(重複)、拡散強調像の信号が「限局的」「まばら」となることが鑑別上大事になるのです。

 この症例は拡散強調でもしっかりと高信号で、鑑別できなかったので髄膜生検に踏み切っています。

 髄膜生検。

 これもやったことないなあ。
 もう僕も引退かな。

 ステロイドは著効する病態らしいです。
 リウマチ性髄膜炎を知るには、症例報告、ブログとか(http://hospitalist-gim.blogspot.com/2019/09/blog-post_11.htmlなど)がお勧めです。
 まだいろいろな意見がある病態ですので今後の成り行きが楽しみです。
 というか、早く遭遇してみたい!


 それでは今日はこの辺で!

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