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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.19

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.19
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長


 今回は2021年1月号の「何読み」です!

 今年最初の内科学会雑誌の特集は、「Helicobacter pylori感染症:残された課題」です。

 この号を受け取ったのは、まさにコロナで医療崩壊真っ最中のとき。あまりしっかり読める時間がありませんでした。

 特集で一番気になったのは、p20の「本邦におけるHelicobacter pylori除菌治療の問題点」というところでした。

 ここは、また読み返そうと思います。かなり重要だと思います。
 しかし、英語・アルファベットが多く、少し読みにくいのが残念でした。

 自分が略号を使う時も気をつけようと思いました。
 自分の当たり前が人の当たり前ではないですからね。

 ということで今回は早速......
「今月の症例、どこに線を引きましたか?(どこ引き)」
に参りますね。

 ちなみにどこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、「何読み」の中のメインコーナーになっております。

 「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、

:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ

で塗り分けるのでした。

 今月号は、以前のように3例ありますので、あまり長過ぎないようにまとめようと思います。
 では、1例ずつ見て参りますね。



■p85 抗マラリア薬予防内服にもかかわらず発症しPCRで診断に至ったコンゴ民主共和国帰国後の四日熱マラリアの1例


 ではいつものように最初にタイトルをみますよ?
 まず、「コンゴ民主共和国帰国後」が “もやっと” はしますがここはスルーしましょう。
 それより「PCRで診断」というところに注目したいです。
 というのは、マラリアは「末梢血スメア」や場合によっては「迅速キット」で診断されることが多いからです。
 それなのに、「PCRで診断」なのです。いいですか。こういうところがポイントです。

 そして!
 なんと言っても前半ですね。
 「抗マラリア薬予防内服にもかかわらず発症」
 これはポイントに違いありません。わかりますよね。
 “にもかかわらず” です。
 もう、そう引き立てているわけですから。
 マラリアのことを知らなくても想像できます。くどいですが「......かかわらず」と言っているわけですから。もうこれは国語の勉強です。
 つまり、“本来は抗マラリア薬予防内服すれば防げるのだ”という含みがあるはずなんです。

 おそらく、このタイトルに全ての要点が凝縮しているはずです。
 ただ1点。「コンゴ民主共和国帰国後」がどう転ぶかはわかりません。
 コンゴ民主共和国は、マラリアと聞いて驚嘆するような国ではありません。むしろ熱帯熱マラリアで超有名な国です。マラリア大国です。
 コンゴ民主共和国帰国後という情報が、最終的に重要なポイントとなるかはまだこの時点ではわかりません。

 タイトルだけで長くなりましたが(ていうか、これが芸というか、この連載のウリにしていこうとちょっと前から決意したんです)、中身に入ります。

 この症例記録は、なんと言っても「考察」が秀逸です。時間がない方は、考察を軸にしてじっくり読むだけでOKでしょう。
 要するに、四日熱マラリアというのは、他のマラリアと違って潜伏期が長い(=肝臓期が長い)ので、予防内服が中途半端で打ち切られてしまうと発症してしまうという観点が1つ。
 もう1つは、血液塗抹検査や迅速キットは、四日熱マラリアでは感度が他のマラリアに比べると劣るという点です。しかもこの症例では、治療薬であるアーテメター/ルメファントリンを受診前日から服用しており、検査感度がさらに低まっていたかもしれないとの考察がありました。

 おそらく本当のメッセージは、まずはいかにマラリアを疑っているか、そしてマラリアの可能性があるなら・濃いなら、通常の検査が陰性でも、予防内服をしていても、潜伏期の長いマラリアを考慮すべきだということにあると思いました。

 1例目は以上です!
 では2例目に参りたいと思います!!!



■p92 急性前骨髄球性白血病に対する同種造血幹細胞移植27年後に発症したドナー細胞由来未分化大細胞リンパ腫の1例


 さて「どこ引き」2例目です。今回もまた、まずタイトルを見てみましょうね。

 このタイトルは......よほど血液学を生業にしている医師以外は目が眩みますよね。Heavyです。
 でも、落ち着きましょう。
 前号でも指摘しましたが、症例報告のタイトルというのは、多少の「盛り」があることが多いです。
 今回ではそれはどこでしょうか。
 そうですね、「27年後に」のところでしょうね。
 強調したかったんでしょうね......。
 これ以外の要素、すなわち、

「急性前骨髄球性白血病に対する」
「同種造血幹細胞移植」
「ドナー細胞由来」
「未分化大細胞リンパ腫」

…...からは、これらが、どうつながって、どのくらい症例報告する意義があるのかまでは読みきれそうにありません。
 とはいえ、「急性前骨髄球性白血病に対する同種造血幹細胞移植」の部分は違和感を感じません。そりゃそうだよねという部分です。
 また「ドナー細胞由来」というところは、なんというか、こういう言い方が出てくるのは当たり前で、「レシピエント細胞が由来で」なんてわざわざ言う?? と私なら思ってしまいます。
 ドナーから移植を受けて、そのドナー細胞由来で発症したことが示されたから興味深いと思うのです。私だけならすみません。

 では本文に入りましょう。
 54歳の男性が、27歳の時に発症した急性前骨髄球性白血病に対してHLA適合の兄から骨髄移植を受けました。
 移植から27年後、右大腿のケロイドのような皮疹からの生検で、ALK陰性の未分化大細胞リンパ腫と診断されたという経緯です。

 この症例報告の要点は、......どうやら「ただひたすら珍しい」というものだったようです。
 そして、底にあった大テーマは「ドナー細胞由来造血器腫瘍」なのでした。

 さすがにこれは分からなかった〜〜〜
 この切り口は、さすがに自分の日頃の診療で意識はしません。
 そういう意味で勉強になりました。

 ドナー細胞由来造血器腫瘍は、同種造血幹細胞移植のかなり稀な合併症なのだそうです。
 その内訳を見ると、多くが骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの骨髄系腫瘍とのことですが、この症例では「リンパ腫」だったということで、その希少性がさらに高まるものだったようです。
 つまり、いわゆる「稀な病気の稀なパターン」だったというわけです。
 むりですよ......こんなの…...

 あとは、リンパ腫細胞がドナー由来かどうかを分析するプロセス(キメリズム解析)などに説明が割かれていました。
 結びとしては、「移植後長期生存者の増加に伴い、今後、診断数が増えてくる可能性がある」として啓発的な記述になっておりました。

 ちなみにこれは北海道大学の血液内科からの報告なのですが、最後の施設紹介を読んだのですが、めちゃめちゃactivity高いですね!!! この集団は本当にすごいと思います。
 北海道の血液学を支えるというプライドを感じます。素晴らしい。

 2例目は以上です!
 では3例目に参りたいと思います!!!
 大丈夫ですか? 息切れしてませんか?



■p101 腫瘍に随伴する後天性血友病Aと診断した小細胞肺癌の1例


 さて「どこ引き」、3例目最後のケースです。

 「け、血友病......むり......」

と思ったあなた!
 それは違います。大丈夫です。
 症例報告で「血友病」と聞いたら大抵後天性です!
 そしてAとかBとかに動揺しないでください。
 後天性の血友病は、普通Aです。
(怪しいと思われるかたはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/103/7/103_1622/_pdf

 ......なので、AとかBとかX(※嘘です)とかって言われても分からない! 知らない!!  と思わなくて良いです。むしろアルファベットは忘れて良いです。考えなくて良いです。

 症例報告といえば、後天性血友病なんです

 で、さらに症例報告にしやすいのは、インヒビター(凝固因子に対する抗体)の存在が示された時で、そしてどんな時にできたかという話において全身疾患に伴った場合に話題にされやすいです。

 はい、ではこのケースではどうでしょうか。タイトルを見てみましょう。
おお〜! もう書いてある! 「小細胞肺癌」!
 そりゃそうですよね。小細胞癌は腫瘍随伴症候群や傍腫瘍性神経症候群とかを併発しやすいイメージがあります。
 つまり、小細胞癌と第VIII凝固因子低下が両方共存していたのでしょう。終了ですね。嘘です。

 では本文を見てみますね。

 …...といっても大枠はほぼ私のタイトル解題通りでした。
 追加的に勉強になったのは、

・後天性血友病のうち、腫瘍が原疾患になるのは5.5〜17%。日本では胃癌と大腸癌が多い。海外では肺癌と前立腺癌が多い。
・腫瘍の治療だけでインヒビターが消失するのは腫瘍随伴性の後天性血友病のうちの22%。

といったあたりでしょうか。
 なお、「後天性血友病A(=自己免疫性血友病)」というものに馴染みがない人でも、考察のところなどに丁寧な説明的記述がありますので安心してください。

 最後に私が一番感心して膝を叩いたのは、この症例で血友病病態があるかどうかにこだわったのは、気管支鏡での生検手技が見込まれているからだとわかったときです。
 ここに臨床的ジレンマがあったわけなんです。生検をしたい・せねばならない。でもAPTTが延びてしまっている。では原因は? マネジメントは?
生検をどう安全に行うか、そこが大事だったのです。
 いや〜臨床ですね臨床。

 タイトルだけでわかった気になっていた私は、本当に浅はかでした。
 こんな「臨床」に直結するケースだったとは。
 やっぱり論文は最後まで読まないとダメです(当たり前)。


 えっと、......今月は以上です!
 コロナは私が思っていた以上に厄介です。
 医療者の皆さん、息抜きしつつ、いつも通りの仕事をやって行きましょうね。

 ではこの辺で!


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