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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.15

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.15
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長


 2020年9月号の「何読み」です!

 いつも、「何読み」と言いつつ結局「どこ引き」(内科学会雑誌に掲載されている1回あたり2~3例の症例報告を國松なりに解題する名物コーナー)ばっかり展開しているので、「何読み」っていうのが、症例報告のnoteと思っている人がおられるようです。

 まあそうですよね。

 が、しかし!
 今回のこの弊note「何読み」は違いますよ!

 なんと、「今月の症例」がありません!

 しーん。

 まあでもこういうことってあるんですよね。私は知っていました。
 というのも今号は、春に行われるはずだった(※ 実際には先日オンラインで開催された)第117回(2020年)日本内科学会講演会のダイジェスト集なのです。

 各講演が、総説論文的に記述されており、この1冊で相当情報量の多い内容になっています。
 内容は主に「最新知見」で、ありきたりのことを総花的に展開するような感じではあまりないので、つまみ読みでも非専門医にとってはかなり勉強になります。

 今回はまさにこのnoteの初期衝動でもある、「今月の内科学会雑誌、何を読みましたか?」にふさわしい号になりそうです。

 まさしく私が読んだところ、重要だと思ったところ、感想、などについてどんどん掻い摘む感じで書き下していきますね。書いている内容は、記事そのものをそのままは切り取らず、なるべく私がアレンジしています。


■難治性神経免疫疾患の病態と治療の最前線


P1765
・ 多発性硬化症の治療について確認しました。
・ 多発性硬化症の第一選択は、グラチラマー酢酸塩(コパキソン,1日1回皮下注射)、IFNβ-1a(アボネックス,週1回筋肉内注射)、IFNβ-1b(1日おきに皮下注射)、フマル酸ジメチル(テクフィデラ,1日2回内服)
・ 第二選択は、フィンゴリモド(イムセラ/ジレニア,1日1回内服)、ナタリズマブ(タイサブリ,4週に1回点滴)

P1766-7
・ 視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)では、髄液IL-6が高く、抗IL-6が治療の標的と考えられ開発されたのが、サトラリズマブ(satralizumab)。いっしゅんサトラレかと思いました。
・ あとはなんとエクリズマブも。
・ いよいよNMOSDの再発防止は、分子標的療法の時代を迎えた。問題は価格が高い。


■免疫チェックポイント阻害薬による合併症とその対策


P1796-1800
・ このレビューは必読です。
・ 実際にはirAEについて深々とは書いてありません。何が必読かというと、聖マリアンナ医科大学での実際・現状が書いてあるんですね。
・ 副腎不全、甲状腺機能異常、間質性肺炎についてだけですが、やっぱりデータは役立ちます。
・ 副腎不全には、内服ヒドロコルチゾン10-15 mg
・ 甲状腺機能異常には、レボチロキシンが12.5-50 μgくらい
・ 大体は、免疫チェックポイント阻害薬を再開・継続可能
・ 間質性肺炎では、休薬し再開せず。


■大型血管炎の診断と治療


P1830-1835
・ いわゆる大動脈炎の治療について再確認しました。
・ 個人的にはトシリズマブをこれまであまり使ってこなかった、つまりMTXでなんとかなっていました。
・ しかし難治だから、治療抵抗性だから、という適応ではなく、初期からトシリズマブを入れていたほうが、ステロイドの投与期間が短くて済みそうなエビデンスが揃ってきているのかもしれないなと思いました。高齢者の場合にその意味が大きいかもしれませんね。
・ これを機に自分のプラクティス変えみようと思った。


■再生不良性貧血の病態と治療


P1862-1870
・ これは全ページおすすめしておきます。
・ 再生不良性貧血(AA)は、造血幹細胞に特異的な細胞傷害性T細胞によって造血幹細胞が壊されることによって発症する。
・ つまりAAは、免疫病態による造血不全(自己免疫性造血不全)という理解。
・SLEにAAが伴うことって結構あるから、個人的にはあまり違和感がありませんでしたが。
・ 私も本とかでよく書いているつもりですが、AAの1番の鑑別疾患は、低リスクMDSで、具体的には、芽球や環状鉄芽球の増加がないMDS-single lineage dysplasia(MDS-SLD)とMDS-multilineage dysplasia(MDS-MLD)
・ 臨床医が最も欲しいのは、AAの早期に診断するマーカーや検査
・ 骨髄検査は不完全。その理由は骨髄の分布が不完全だから。要するに採ってきたものに造血巣が残っていると、残骨髄能が残っているかのように捉えられ過小評価されてしまう。
・ 一方、骨髄不全がわかっても低リスクMDSとの区別が結局は難しい。
・ つまり重要なのは骨髄不全の原因の確定診断をすることではなく、免疫病態の骨髄不全かどうかを知ることであり、そのメソッドが必要だということになる。ここ重要です(何様)。
・ 紹介されていたのは、微小な量(0.1%未満とか)のPNH型血球を精確に検出できるFLAER(fluorescent-labeled inactive toxin aerolysin)を用いた高感度フローサイトメトリー検査
・ その他、血漿トロンボポエチンやHLAクラスI欠失血球なども免疫病態かどうかの区別に役立つが、高感度フローサイトメトリー含め保険適応がない。
・ なるべく早くAAを診断できたらすごく成績が良くなるのになと思いました。私でも外来で治療できてしまうと思う。


■IgG4関連疾患の新たな展開


P1874-75
・ 改訂された2020年の包括基準の変更点など
・ リンパ節病変単独をIgG4関連疾患に含めない、高熱・高CRPは除外項目、などが追記されました。
・ 炎症ある例はすぐにはIgG4関連疾患と考えるな、とずっと言い続けてきたので感無量

P 1876
・ 治療はステロイドですが、米国では以前からリツキシマブが試されている。
・ 日本では、何を使うにしても、保険適応の問題が......
・ MMFが良いらしい。


■内科医が知っておきたい補体関連疾患


P1925-1931
・ これは、タイトルというか「テーマの切り口大賞」ですね。参りました。
・ 補体で切れるなんて......また出版社が食いつきそうだ。
・ 花形は「エクリズマブが効く病気」
・ 重症筋無力症やNMOSDのマネジメントが変わったら面白い。
・ 繰り返しますが、「ありきたりな」テーマが多い中で、本当に目新しい斬新なテーマでのレビューでした。


■最近の便秘診療


P1945-1952
・ おすすめ。特にP1948
・ 日常的に多いなと最近とみに思うのは、「機能性便排出障害型」というやつ。機能性便秘の中の1つという位置づけ。
・ 腹圧・怒責力の低い高齢者や女性をはじめ、あと肥満の人や骨盤底筋に問題のある人にも多いと思う。脊損や脊椎外科手術後の患者さんとかも。
・ 直腸知覚の低下もおそらく病態で、腹部単純X線でみると、要するに宿便がしっかりある。
・ 意識高い研修病院では「その腹単意味ある?」って教わるけどあれは嘘。
・ このnoteを読んでる人に教えちゃうと、原因が複雑でなければ「ガスモチン + 桂枝加芍薬大黄湯」で完璧です。「便秘してない」と言い張る患者の場合は、「ガスモチン + 桂枝加芍薬湯」で良いです。


 「何読み」としては以上です。

 再生不良性貧血のところで述べた「高精度PNH型血球検査」について詳しく知りたい方は、医学書院の雑誌「検査と技術」の8月号の中の記事(石山 謙. 骨髄不全症の病態診断と高精度PNH型血球検査. 検査と技術. 48巻8号 p792-797, 2020.)をおすすめします。

 はあ、勉強することがたくさんあって参っちゃうなあ。

 ちなみに私がセルフトレーニング問題をちゃんとやったかどうか心配されている方へ朗報です。ちゃんとやりました。ささっとやったのでまあまあな恥ずかしいスコアであることが予想されます。結果が出たら、何読みのこの欄でまた紹介しますね。


ではまた!!

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