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抗菌薬相互作用整理BOX(26)

第26回リトナビルブースト再考~パキロビッド®~

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.6 No.3 2022年5月 刊行)

はじめに

2021年12月24日にわが国で初めての新型コロナウイルス感染症の内服抗ウイルス薬であるモルヌピラビルが特例承認された後,年が明けた2022年2月10日にニルマトレルビルとリトナビルの合剤であるパキロビッド®が2番目の内服薬として同じく特例承認されました.パキロビッド®はモルヌピラビルと違い,リトナビルが含まれているため相互作用が多く,併用禁忌および注意の薬剤が多数あります.以前,リトナビルが関与する相互作用については第20回のカレトラ®(ロピナビル/リトナビル:LPV/RTV)で取り上げましたが,今回は,このパキロビッド®の相互作用を整理したいと思います.

相互作用のメカニズム

パキロビッド®はニルマトレルビルとリトナビルという2種類の薬剤からなり,海外ではPAXLOVIDTMという名称で使われています.
 抗ウイルス効果の本体であるニルマトレルビルは,SARS-CoV-2のメインプロテアーゼ(Mpro,3CLプロテアーゼまたはnsp5とも呼ばれる)阻害薬であり,ポリタンパク質の切断を阻止することにより,ウイルス複製を抑制します.
 一方,リトナビルは,SARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を示しませんが,ニルマトレルビルの主要代謝酵素であるCYP3A4の阻害作用を有するため,ニルマトレルビルの代謝を遅らせ,血漿中濃度を維持するブースト剤の目的で併用されます.
 パキロビッド®パックの添付文書【1】によると,ニルマトレルビルとリトナビルを併用した場合,健常人における半減期はそれぞれ6.05時間と6.15時間とされます.ニルマトレルビルは主にCYP3A4で代謝されますが,リトナビルによってCYP3A4が阻害された状態では,体内からの主な消失経路は腎排泄となります.このときの糞および尿中から未変化体を含む薬物関連物質がそれぞれ投与量の35.3%,49.6%確認されています.
 中等度および重度の腎機能障害患者では,それぞれ87%および204%のニルマトレルビルの血中濃度-時間曲線下面積(AUC)の上昇が確認されているため,中等度の腎機能障害患者にはニルマトレルビルを半量に減量する必要があり[図1],重度の腎機能低下患者への投与は推奨されていません.

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