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抗菌薬相互作用整理BOX(32)

[第32回]ファーマコダイナミクス~キノロン系薬とNSAIDs ~


山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授


(初出:J-IDEO Vol.8 No.3 2024年5月 刊行)


はじめに

 先日,診療録を確認していると,肺炎を疑っている長期療養患者に対し,若手医師が,バイオアベイラビリティ良好なレボフロキサシン(LVFX)を処方していました.翌日,上級医が,痙攣の副作用の懸念があるためセフカペンに変更し,よくならなければ点滴を考慮するという治療の流れになっていました.若手医師の記録からは,末梢カテーテルも取りにくい患者さんに少しでも効果を期待してLVFXを処方したという意図が伝わってきました.
 しかし,抗てんかん薬も複数定期服用され,発熱時の前オーダーにはロキソプロフェン頓服の記載もみられます.代替薬は置いておいて,上級医の判断にあるように痙攣の既往のある患者にキノロン系抗菌薬を使いにくいのも納得です.今回は,キノロン系抗菌薬と痙攣,とくに非ステロイド性消炎鎮痛剤薬(NSAIDs)との併用について整理していきたいと思います.

相互作用のメカニズム

 γ-アミノ酪酸(4-aminobutyric acid:GABA)は,アミノ酸の1つで,グルタミン酸が基本的に興奮性の神経伝達物質であるのに対し,GABAは基本的に抑制性の神経伝達物質として機能しています.痙攣が発現するメカニズムは,中枢神経系の抑制伝達物質であるGABAの受容体結合の抑制が考えられています.
 また,痙攣はキノロン系抗菌薬の血中濃度や中枢内濃度の異常な上昇による急性中毒症状と考えられています.
 キノロン系抗菌薬は,その創薬の歴史1)から置換基の模索により,6位のハロゲン,7位のピペラジニル基の導入が抗菌力の増強に寄与しました[図1]が,同時にピペラジニル基は,GABAの競合阻害を起こしやすく中枢性の副作用発現のリスクが高くなることが知られています.

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