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『地獄の楽しみ方:京極夏彦』を読んだ

書店に行くと、文庫本の厚みの存在感が凄い京極夏彦先生の本。読んでみたいと思いつつも、ボリュームに圧倒されてなかなか手が出せていない。流石、鈍器本と言われるだけのことはある。

今日も書店をふらついていたら、京極先生の棚の中に、圧倒的な薄さの本があった。そんなわけなかろう!?と手に取ると、それは小説ではないようだ。2019年7月27日に一般公募の15〜19歳の聴講生50名を対象に行われた特別授業を元にした本らしい。

タイトルは『地獄の楽しみ方』
表紙のポップさとモチーフが地獄という苦しそうなもので掛け合わされていて、気になってしまった。これを目的として行ったわけではないけれど、何かの縁ということでお買い上げ。

◎概要
「あなたの世界」は言葉ひとつで変わってしまいます。SNS炎上、対人トラブル――あらゆる争いは言葉の行き違いから起きています。言葉の罠にはまらないため、語彙を増やして使いこなすわざを身につけましょう。小説家・京極夏彦が指南する、地獄のようなこの世を楽しく生きていくための「言葉」徹底講座。

◎覚書

・役に立つことではないが、役に立てることはできる。話をそのまま受け取るのではなく、その話をどう役に立てるかを考えてほしい。

・言葉は人類の最大の発明。他の動物よりも複雑な思考をする能力を得て、言葉が生まれた。むしろ言葉のお陰で考える力が発達したともいえる。

・言葉によって、世界という混沌を秩序に変え、頭の中を整理整頓し、意識や自我というものまで作ってしまった。

・動物たちには「今」しかないが、人間には「過去」や「未来」が、頭の中にある。時間という概念によって。

・時間は高次元にあるため、そのものを理解できない。時間を知るためには低い次元に置き換えが必要。それが変化や運動といったものになる。

言葉は不完全なもの。気持ちを伝えるためには言葉にする必要がある。「悲しい」と一言にしても、他に感じていた思いは削ぎ落とされてしまっている。悲しいにも、いろんな悲しいがあるから、受け取る側が好きなものを選んで理解してしまう。

・言葉によって単純化するからこそ、整理整頓ができ概念となり得る

・言霊。人間には効く。人の心は言葉で左右される。いろんな煽り文句があるけれど、それ単体で効果はなく、それを聞いた人に影響を与えて変化が出る。

・人は言葉の欠けを勝手に埋める。コミュニケーションで会話したとしてもそれで意思疎通ができるとは限らない。不完全である言葉を使う以上、伝わらない部分は受け手が補完してしまう。

・不動産の契約書や保険の約款は、ものすごく細かく書いてある。それは曲解されないように、解釈の幅をできるだけ狭めるため。

・言葉はデジタル。アナログに近づけるには細分化するしかない。

・逆に小説は書いてないことのほうが大切になる。楽しい、わくわくするという感情は小説がもたらしたものではなく読者が作り出したもの。

・日本語でメールなどを書く時。漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、絵文字、顔文字、スタンプ、マーク…何でも使う。こんな適当な言葉はない。視覚言語として日本語は優れた特性を持っている。

・それぞれが読むことによって紙背や行間から何かを汲み出し、それぞれの心の中に素晴らしい物語を生み出せる、そうした作品であるならばそれは傑作といえる。傑作になるかどうかは読者による。

・人の言葉を聞く時、何度も何度も意味を考えてから反応しよう。言葉の行き違いで争いや戦争の多くが生まれてきたのだから。

・自分自身のことも言葉で騙していないか?言葉を利用して自己正当化していないか?

・勝ち組、負け組なんて言うけれど、何に勝ち、何に負けたのか。勝ち負けのような単純化された価値観を人生に持ち込むのは愚か者のすることだ。

・怠ける自分を別人格と想定しているから、自分に買ったなんて表現がある。できないのは努力不足か分不相応な目標なだけ。

・人間はなりたいものになる。本当の自分じゃないというなら、やらないからできていないだけ。今の自分がこれまでの成果。

・オリンピックを立派な運動会という表現してくるの好きだな。金メッキの円いもの。

・いい大学に行っていい会社に入れば素晴らしい人生が待っていると教わった人たちは、社会に出てからは地獄のような日々を味わっている。でもこの世界は面白いものだ。地獄だって面白がれれば面白い。

・もともとあった言葉を使い方や意味を変えて使っている(ら抜き言葉や爆笑とか)でも、大筋が伝わるので、自由に変わっていってしまう。

・今はどんな発言も記録されるし、拡散せれてしまうし、切り取られ編集されてしまうし。慎重さと配慮が多く求められる。

・愛は仏教で言うなら執着。愛という言葉を使うことで執着というマイナスイメージをクリーンで崇高なものに変えてしまう。日本語にはたくさんの言葉がある。慈しむ、情けをかける、好き…愛で済ますのをやめよう。

・語彙の数だけ世界が作れる。本を読み別の人生を味わうことによって語彙というアイテムを手に入れることができる。

・多種多様な読み取り方ができるようになれば、現実世界が辛くても、少なくとも仮想現実世界での安寧と幸福は得られるし、それを、現実世界で生きる糧にもできる。

◎読み終わって
京極先生って、見た目や文庫本の厚さから、頭が固い大先生であるように思っていた。けれど、ざっくばらんな公演について読んでイメージが変わった。
今まで本を読むことがほとんどなかったから、私の世界はだいぶ解像度が低かったんだろうなあと思う。でもこんなに自由度の高い人生という物語を生きているのだから、もっといろんな角度から物事を見ることができればより楽しく生きていけるんだな。
先生の本もいずれ手を出します。ちょっとあの量の文庫を手に取る勇気がまだ無いや。たくさんの語彙を引っさげて挑戦できるようになります。

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