21世紀の_公共_の設計図

「小さくて大きな政府」とGovTech

市民の多様化したニーズを低コストで叶える「小さくて大きな政府」を、GovTechは形成しつつあるのでしょうか。2019年はGovTech元年と呼ばれ、2020年2月には株式会社one visaさまがカオスマップを作成するなど、市場としての認知・形成が進んでいるGovTechの現在について考えてみました。

本note、「「小さくて大きな政府」とGovTech」では、国内のDXへの注目の高まりと、それに伴うGovTechの市場への注目の高まりを、日本社会の情勢、政府の法令・方針、自治体の取り組みの観点から概観します。

小さくて大きな政府とは

小さくて大きい政府」は、最低限のコストで、最大限のニーズに応えることのできる政府を指します。

経済産業省によれば、公共サービスを受ける市民のニーズはさらなる多様化を見せています。それに反する形で、人口減少に伴い、公共サービスのコストは増大します。そのため、ニーズの多様化が進む一方で、コストの増大が進むと、公共サービスは不可避的に維持不能となります。

こうした状況に対応するため、公共サービスそれ自体の効率化ならびに、サービスのステークホルダーに対して適切に情報・体験を提供できる状態(=「小さくて大きな政府」)が要請されています。そして、「小さくて大きな政府」は、公共サービスのDXおよび、市民社会ないしステークホルダーの参与を欠かせない要素として持つこととなります。


というのも、「21世紀の「公共」の設計図」にある通り、デジタルテクノロジーは「最小コストで最大化する」「個別のニーズに個別に応える」ことが得意だからです。この特徴から、DXが多様化するニーズ・増大するコストという2つの局面に対応できることが期待されています。

事実、後述の様に、日本政府はクラウドサービスの利用を呼びかけるなど、行政のIT化を進める方針を打ち出しています。なお、行政のIT化は、行政手続きを単に電子化する(電子申請など)に留まらず、行政手続きの参加者(市民、法人、コミュニティ)目線(=ユーザー目線)でのサービス改革を行うという文脈をも含みます。

市民社会の参与は、公的サービスを民間が代替する(e.g. 高齢者の移動をバスではなく、タクシーで行う)という意味ではなく、特定のサービスの課題・提供の方針を政府が示しつつ、関連する市民社会が保持するリソースにより解決する(e.g. 高齢者のIT教育に際し、地域の若者がスマホの使い方を教える)、という意味です。
なお、本noteにおいては、市民社会の参与については、IT利用される限りにおいて事例として取り上げ、その他の関わり方については、また別の機会に譲ることとします。

これらのIT化・市民社会の参与という解決方法は、行政府が全ての公共サービスを作成・提供するという縦割り的な前提ではなく、民間・市民(公共空間、施設、労働力)自体をサービス提供者として、行政府がプラットフォームとしての「公共サービス」の場を作ることにより、実現されえます。(『NEXT GENERATION GOVERNMENT』、pp.72-86.)

DX推進に関する日本政府の方針

2016年から、日本政府は「官民データ活用推進基本法」により、法律上の義務として行政手続き自体の電子化と、クラウドサービスの利用促進を行なっています。行政手続きの電子化については、「デジタル・ガバメント実行計画」が記す通り、従来のやり方をデジタルに置き換える(Digitalization)ではなく、デジタルを前提とした新たな社会基盤を構築する(Digitalization)が、企図されています。
Digitalizationの中で重視されているのは、デジタル3原則です。

①ワンスオンリー
->一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
②デジタルファースト
->個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する
③コネクテッド・ ワンストップ
->民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する

デジタル3原則

出典:経済産業省「行政デジタル化に関する政府全体の動向と経産省の取組

①、②についてはエストニアに代表されるような電子政府を追随する流れ、③については本noteのテーマであるGovTechに関連する方針といえます。
同計画にはUXの最良化を企図した「サービス設計12箇条」が掲載され、行政手続きを利用者の目線で構築することも織り込まれ、現行手続きを単にデジタルに置き換えるだけではないことが、強調されています。

クラウドサービスの利用については、2018年の「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」によって、「クラウド・バイ・デフォルト原則」が打ち出されています。

同原則の下では、システムの検討においてはクラウドサービスの利用を第一候補とし、要件やセキュリティを満たさない場合に初めて、オンプレミスのサービスを選択することとなっています。クラウドサービス利用には、行政サービスの迅速な立ち上げ、コスト削減、セキュリティ・リスク削減、柔軟性ならびに、運用時の物理的な損害リスク低下が期待されています。

ここに述べたユーザー目線のサービス設計と、クラウドサービスの活用は、民間企業のアイデア・技術活用といった局面を開き、日本においてGovTechがより認知・利用される下地を形成しました。

スタートアップ x 自治体の協創に向けて

行政の取り組みはここまで述べてきた法令・方針の整備に留まらず、近年、自治体のDX促進のための広報と、民間ビジネスを生み出すためのオープン・ガバメント化が行われています。

広報面において、経済産業省は「Govtech Conference Japan 2019」を開いたほか、Code for Japanとの制度ナビ開発プロジェクト例の共有を行い、自治体に向け上述の考え方ならびに民間との協同の仕方を教え、DX浸透に向けて動いています。これに加えて、2015年ごろから先進的にGovTech導入に取り組んでいた神戸市が「GovTech Summit 2019 in 東京」を開いて「スタートアップ x 自治体」の成功/失敗例を発信するなど、より実際的な、GovTech導入に向けた情報共有がなされています。

オープン・ガバメントによるGovTechの創出・自治体との協同の創出は、2017年ごろから神戸市が本格的に取り組んでおり、主たるプロジェクトとしてはUrban Innovation KOBEが取り上げられてきました。このプロジェクトは、行政側が課題を提示し、それに対してスタートアップ企業が応募、解決案を検証していく形で進みます。同案が採択されれば予算化が行われ、行政からの資金調達が成立します。

同プロジェクトは、行政に対しては課題解決の試験となり、企業に対しては自治体に伝わるPRの場を、そして資金調達の場を提供しており、スタートアップを巻き込む仕組みとして、GovTech市場の興隆の一助となっています。

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2019年下期からUrban Innovation KOBEはUrban Innovation JAPANに改組され、神戸市から日本全国へその対象範囲を拡大し、実施され始めています(※2019年下期での課題提示は神戸市・姫路市のみ。また、同様の事例については、他の自治体でβ版として実証を開始する見込み)。

行政府はこれらの広報・仕組み整備によって、法令・方針によってDXで達成すべき状態を示すだけでなく、実際に自治体が民間と協創し、デジタルによって課題を解決できる状態を、ちょうど現在、作りつつあると評せるでしょう。

GovTech2年目に寄せて

近年の法令・方針と、2019年の方針・事例の広報および、自治体協創型の取り組みの拡大は、これまで見てきた通り、本格的な市場の形成の可能性(GovTech元年)を示しています。市場環境の整備とは裏腹に、しかし、GovTechとカテゴライズされる事業・企業は、以前から存在していました。

次のnoteでは、(実質的)GovTechサービスがこれまでどのような領域に展開されてきたかを、サービス事例の整理と、官公庁・民間レポートを元に、検討していきます。

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