ニガツノナミダ

私はマラソン大会が嫌いです。走るのが苦手だし寒いのも苦手です。練習では5年間連続1位の男子が何周も何周も私を抜いていき、その度にあまりハァハァもしていない息づかいを「きっと私を抜くときだけ息を止めてるんだ」って思うようにしている自分も嫌になります。トラックじゃなくて真っ直ぐなら良いのになって思います。

本番当日の私は、コースの長さと体育着の寒さに気が遠くなりそうでした。唯一の救いは真っ直ぐなことだけです。

「位置について、よーい、バンッ」

音がなって、この火薬の匂いを嗅いでから走り出すものに1度も良い思いをしたことがない私は、その呪いの呪文を受け重くなった両足をなんとか動かして走り出しました。
先に走り終えた男子はハァハァ言わないあの人が6年連続ダントツで1位。6年連続で1位は創立120年の歴史でも初めてのことだから特注で名前の入った盾が贈られるらしいの。
「きっと今日はたくさんハァハァ言ってたに違いない」って思ってる自分を少し嫌になりながら、私がよく聞く曲の人たちも言葉に追いつかれないように一生懸命走ってるみたくて、ちゃんと特注で名前入りの盾を貰ってるのかしら?なんてちょっと心配ごとまでしちゃったりして。

当たり前のようにゴールにはもうゴールテープはなかったけど、6年間走りきった満足感は不思議とあった。呪いは解けちゃったのかしら?なんて考えごとを終えると、自分のハァハァに気付いて急いでそれを隠した。


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