王朝との対戦

ここ数日間、W杯が開幕してから正直に言って自分の睡眠は十分ではありません。
仕事として世界中のバスケを分析しているから?
それもあるかも知れませんが、日本が戦う前日となればゲームの展開を想像してはソワソワして寝付けず…
日本が戦った直後は敗戦の悔しさから寝付けず…
の繰り返しだからです。今回のnoteはアナリストとしてよりも、ひとりのファンとしての要素が強いかもしれないので悪しからず…。

コートに全てをぶつける選手たち。なんとかこの2試合で彼らに勝たせてあげたかった。なぜなら、「勝って初めて得られる経験」があると、僕は思っているからです。そして選手ひとりひとりの頑張りは、勝利に値するものだったとも思っています。FIBAワールドカップ2019年はまだ終わっていませんが、前回の五輪ではアジアチャンピオンの中国ですら1勝も出来なかった… それだけ世界の壁は厚いのかもしれませんね。

今このnoteも不意に起きた深夜3時に書き進めています…もちろん公開前に後で読み返してチェックも入れます…そして謝らなければならない事。このW杯期間中はnoteを有料とし、みなさんからのサポートを全額寄付と約束していました。がしかし、今回のこのnoteは再び無料とさせていただきます。悩みました、でも、もしサポートをくださる方がいらっしゃれば、もちろん寄付させていただきます。

この1週間、正に臨戦体制で自分の脳も情報を処理しようとしているだけに、男子バスケ日本代表が対処しなければいけない、エモーショナル(感情的)かつ、ジェットコースターのような状況がもたらす疲労は、想像すら出来ません。

そして、今夜は「空気を吸うだけで高く飛べる国」、アメリカとの対戦です。12名の代表、そして共に戦う戦士(ファン、サポーター、みんな)も今一度気持ちを整えて対峙しなければならない相手だと思います。

レガシーを紡ぐ日本 レガシーを繋ぐアメリカ

世界という舞台のスタートラインから走り出した日本、対して今日戦うのは、世界のど真ん中に君臨してきたバスケ王朝。

実力的には湘北と山王「選手たちの自信が打ち砕かれてしまってもおかしくない」隔たりがある事を、NBAを日常的に観戦してきたファンならば感じているかも知れません。

ただし、そんな中で今回こそはと、セルビアやスペイン、フランスなどというバスケ強豪国が千載一遇のチャンス、虎視眈々と王朝の転覆を狙っているのが今回のW杯です。その最大の理由、それは続出した代表辞退者の多さ。

昨シーズンのNBAでは26名のオールスター選手が選出され、アメリカ国籍選手は20名でした。その20名のうち今回の代表に名を連ねているのは2名だけ。

そしてNBAは毎年『ベスト5』に値するAll NBAの1stチームから3rdチームまでを記者投票によって選出しますが、この1stから3rdまでの15人中アメリカ国籍選手は11名。そのうちW杯に出場しているのは3rdチームに選出された1名のみ。

なぜこれだけアメリカ選手の辞退が続出したか?ほんの一例として、秋から始まる新シーズンのパフォーマンスが、今後5年200億円規模の契約に影響する選手もいたりしました。国を代表して戦うことは名誉だけれどもNBAのTOP中のTOPともなれば怪我のリスクとキャリアにおけるビジネス的な判断を冷静にしなければならないのでしょう。またアメリカ代表を統括するコランジェロ氏はアメリカ代表の紅白戦の中継中に行われたインタビューにてに

今度W杯が五輪の前年に行われるフォーマットが続けばアメリカ代表としては21-22歳で構成して戦う大会になっていくかも知れない

との見解で、アメリカの超ビッグスターは五輪を最大の名誉と位置づけ。W杯は若手に譲る潮流が今後強まると見られています。

これはW杯と五輪の過去5大会で42勝0敗、そしてこのW杯でも2勝0敗の王朝の慢心とも大会前は捉えられていました、が…
これは世界における現在地と照らし合わせると、日本に対しては無慈悲に働く可能性があります。

NBAで5度の優勝を名将ポポビッチは大会前から『 成長』という言葉を旗印に一戦一戦にどう取り組むかが大切と口を酸っぱく言っています。

そこに来て、前回ゲームで同じグループEのトルコにも延長で1点差と辛勝したアメリカ代表。ただでさえ現状のメンバーでは、他のバスケ強豪国と王朝の距離が縮まったのでは?と世界が注視していた中で垣間見えた脆さとチームとしての粗さ。まだ発展途上のチームだと分かれば、スタッフも選手たちも日本に対して隙をみせる可能性は低くなった、とみるのが自然だと思います。

そんなアメリカ最大の武器は堅守速攻。どんな局面でも打開するようなスーパースター不在だからこそ、最も確実で最も泥臭い戦いをしてくることは必至です。

最大の敬意を持ってダブルチームをしない

今回は、戦略的な注目点を多くあげたりはしません。しかし、対戦において注目はアメリカのディフェンスのスタイル。
彼らはプライドと威信にかけたマンツーマン・ディフェンスが信条。真綿で対戦相手を絞め殺すような強固さを誇っています。さらにセンターやパワーフォワードをおかず、5人のガードとスモールフォワードを使用しつつも、210cm規模の対戦相手にすらダブルチームを基本送りません。これは対戦相手を軽視しているからではありません。

むしろ、ダブルチーム (2人の守備がひとりの攻撃選手を2人がかりで守りに行くこと) に行く事で明け渡す数的優位を排除するためで、対戦相手のどの選手にも決してノーマークを許さない考えに基づいている、非常に現代的な考え方だと思います。

そしてこれは相手の選手の最後の1人まで軽視していないということでもあり、王者とて数的優位を与えてしまうと世界のシステムは得点に結びつけるだけ進化しているということでもあると言えるでしょう。日本がこのマンツーマンに対していかにアタックする積極性を見せられるのかが勝負の最大のポイントでしょう。

アメリカ代表メンバーの特徴

世界がチャンスと感じているとはいえ、あの日本が歓喜したドラフト1巡目指名を経てNBAキャリアを築いて来た選手が10名。ある意味もっと凄いこととも言える2巡目指名から代表まで上り詰めた選手が2名で構成されています。では紹介して行きますね。(#今大会背番号)

ケンバ・ウォーカー(#15)
このW杯におけるアメリカの顔。オールスター選出で代表に参加する2人のうちのひとり。昨シーズンのNBAで1試合平均3本以上の3pt成功を含む、平均25得点以上をあげながら平均5アシスト以上を記録した3人のうちの一人。登録は185cmだが実際は180cmを切っていると思われる身体でNBAを切り拓いてきた電光石火のドリブルとオフェンス力。

ドノバン・ミッチェル(#5)
ユタ・ジャズの若きエースであり将来のオールスター候補。188cmながらダンクコンテスト優勝の経歴を持つずば抜けた身体能力。しかし技は巧みで実に身のこなしは柔らかく、忍者かネコ科の猛獣かと目を疑うほど。

クリス・ミドルトン(#14)
ドラフトは2012年2巡目39位。キャリア7年目にしてオールスターに初選出された苦労人だが、必殺仕事人。兎に角やることなす事が堅実で昨季NBAでシーズンMVPを受賞したアテトクンボ(ギリシャ)の右腕としてチームを、東カンファレンス決勝まで導いた。

ハリソン・バーンズ(#8)
2015年優勝チームの先発フォワード。機動力と身体の強さを併せ持ち、1対1も…ゴクリ。この代表では203cmながら相手のセンターを抑える仕事も多く、影のキーマン。この代表では唯一リオ五輪の金メダリスト。

マイルズ・ターナー(#12)
昨シーズンのNBAブロック王。レンジに入るものは全てハエ叩き。長いリーチから放たれるショットのレンジも広い。

マーカス・スマート(#7)
名門ボストンセルティックスの守護神。足を動かしてよし、身体をぶつける肉弾戦もよし。うかつなドリブルやパスは全て手にかけてしまう。

ジェイレン・ブラウン(#9)
『ターミネーター2』という映画をご存知だろうか?彼はバスケにおける液体型人造人間で必要な形に常に変化して対戦相手に襲いかかる。

ジョー・ハリス(#6)
昨季のNBA3ptコンテスト優勝者。昨季の3pt成功率は47.4%でシーズンタイトルも獲得。2014年ドラフト2巡目33位ながらNBAに定着。3ptラインでは絶対に見失ってはいけないがドライブも秀逸。守備では若干周りに劣る。

ブルック・ロペス(#13)
213cmと長身ながら昨季は36.5%の確率で試合平均6.3本の3ptを放っていたセンター。最近はシステム上攻撃で外郭に位置取りするが、本来はポストでのステップもドライブもあるスコアリングマシーン。守備ではリング前に立ちふさがる柔と剛を持ち合わせたセンター。

デリック・ホワイト(#4)
名将ポポビッチの秘蔵っ子PG。196cmの長身でゲームコントロール、ドライブ、守備に長けており、潮目を読むバランス感覚が優秀。

メイソン・プラムリー(#11)
名門デューク大出身。外郭のショットはないがパスや繋ぎで柔らかさもみせるセンター。コートを駆け上がる脚力やピック&ロールからみせる空中での合わせは抜群。2014年W杯金メダル。

日本代表が積み上げたい小さな勝利

これまで1戦1戦がそうだったように、気持ちの上での日本の勝利は100%。しかし、この戦いの本当の戦いは、

八村がNBAの歴然たる先発クラス相手にどんなハイライトになるようなシーンを披露し、新シーズンのNBAでどれだけのパフォーマンスを約束してくれるのか?
馬場が速攻でどのNBAスターの上からダンクを決めるのか?
比江島がどんなステップでアメリカの目の色を変えさせるのか?
ファジーカスは生まれ故郷とかつて所属したリーグに対して、日本人となって迎えた今大会のプレーでどんなメッセージを送るのか?
長らく日本代表を支え、近年の目覚ましい成長ぶりをみせるベテラン竹内譲次のプレーは、アメリカにどのくらい披露できるのか?

この様に『小さな勝利を如何に日本のメンバー達が勝ち取っていけるか』にこそ、この試合の真の価値があると感じています。そして選手たちが見せてくれるワンシーン、ワンシーンに語り継がなければいけないドラマ必ずそこにはあるはず。日本バスケ界、60万を超える競技人口とそれを支える幾多のファンの代表として今この瞬間アメリカと相対する事が出来るのは我々のヒーローである12名だけなのですから。

選手の起用はいかに?

最後に、W杯1stラウンドから順位決定戦へと回ることが決まっている日本代表ですが、このゲームでの選手起用である考え方が浮かび上がると思います。

・これまでの戦いと五輪まで継続するものが多く見込めるならば、通常通り主力を中心とした戦い。
・五輪まで方向転換する部分が多い。これから修正を加えることが多く見込まれるならば、これまで不出場だった選手含め 全員起用。

まずは世界の頂点との距離をはかりにいきたい。しかしゲームが万が一崩れた場合、肌でアメリカと対峙したものしか得られない感覚は12名全員に感じさせてあげたい。特に組織としての積み上げが得られないのであれば、個々の成長を優先しても良いのかも知れません。

かつて1992年にバルセロナ五輪が行われ、対戦各国はNBAのスターと対戦し、一見屈辱とも言える点数でありながらアメリカ代表と笑顔で記念撮影をしたり、サインを求めたりしたエピソードがあります。ただ、今の日本は当時の世界ほどアメリカに対して遅れを取っていないはずですし、王者の胸を借りてぶつかりつつも、もぎ取れるものも必ずあると信じています。

今振り返ってみると、バスケットボールが今や世界NO.1ともNO.2とも言えるスポーツになったのはあの当時マイケル・ジョーダン筆頭にドリーム・チームが対戦各国の選手、ファンを引っくるめて魅了し虜にしたことがスタートでもあります。そして対戦各国が経験を糧に10年の間に「アメリカに追いつけ!」を合言葉に急成長を遂げました。長らくそんな世界に遅れをとりながら選手たちがこじ開けてくれた世界への扉。その扉の先にはいよいよ日本も超一流エンターテイメントとしてバスケットボールに熱狂する世界が広がっていて、今日がその次なるステップとなることを期待しています。

かつて自分もプレーヤーの端くれだったからこそ感じてしまう王朝の強大さ。
史上最強の日本、本人たちから見ても途轍もない頂にチャレンジする今日。もしかしたらその山頂からの景色を見渡せるのは、今日ではないかもしれません。
しかし彼らが勝ち取ったものがなければ、今この話すらできていません。そして彼らが世界最高峰にチャレンジを続けて、続けて、最後のブザーまで戦い抜いて発信するメッセージは、これから才能を爆発させようとする子供達には必ず届くはず。

史上最強日本代表の選手達、上海のベンチに一緒に入っていないがここまでチームを連れて来るために繋いでくれた選手達、ひとりひとりが既に僕の目にはWINNER…勝者です。

今夜は勝者の戦いを目に焼き付ける。伝説は始まったばかり。みなさんも一緒に歴史の証人になりましょう!

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