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2022年3月の読書

3月は8冊。そこそこ読めた気がする。

ドメイン駆動設計入門

Evansのドメイン駆動設計をいきなり読むと挫折しそうなので手をつけてみたが、実際のコードでドメイン駆動設計が説明されているのが良かった。とはいえ紙面だと構成を追いにくいので、Githubに著者が用意しているリポジトリを見た方が分かりやすかった。

最も大事なことは「ドメイン知識をどうコードに反映させるか」であり、アーキテクチャはあくまで目的ではない、という話が最初と最後にある。開発者はついついアーキテクチャやコードに気を取られてしまうが、大切なのはシステムが価値を生むかどうかであり、ドメイン駆動設計が提供するものを見誤ってはならない。

更に学ぶならクリーンアーキテクチャやEvans本も読むべきだが、入り口としては良い一冊だった。

アイヌと神々の物語~炉端で聞いたウウェペケレ~

アイヌと神々の関係は双務的である。人間が一方的に膝を屈するのではなく、「こちらが神を敬うのだから恩恵を与えて欲しい」というある種の契約関係であり、神のやらかしに対しては人が神を叱ることすらある。この距離感が面白い。

太陽のパスタ、豆のスープ

婚約破棄をされた主人公、明日羽は叔母の勧めもあって「やりたいことリスト」を作り実行していく。とはいえ本当に大事なのは「リストの内容を実行した結果」ではないというのが本作の大きな特徴だ。

明日羽はこれまで、「XXがあれば」という人生を送ってきた女性だ。学歴を得れば、職を得れば、あるいは、結婚すれば。そのどれもが実際は大したものではなくとも、世間で大事とされるものを得れば良いのだと、人生を他人の評価軸に委ねてしまっていた。だから、婚約破棄を通して人生を見つめ直す必要があった。

結論はありきたりで、「納得した人生」は仕事を通して実現するしかない、というようなニュアンスになっている。大事なのは「明日羽が」その結論を出したということで、読者は明日羽の旅を追体験することで、リストよりも「リストがあること」そして「実行することでの心の動き」こそが大事であることに気付く。

宮下奈都の良いところはコンプレックスを抱いた女性の描写が上手いという点に尽きる。きっと誰もが抱いたことがあるであろうコンプレックスを、「私の」コンプレックスであるかのように描く。だからこそ、読者は明日羽に寄り添うことができる。再読だが、毎回新しい発見のある小説だ。

データマネジメントが30分でわかる本

DMBOKの内容をざっとまとめたハンドブック。「30分でわかる」を銘打っているだけあって内容は深いものではないものの、頭の中に知識の大まかな地図を作るという意義はある。この後にDMBOKに進むなり、『実践的データ基盤への処方箋』に進めば捗りそうだ。というより捗った。

実践的データ基盤への処方箋

本書は全3章構成で、

  1. データ活用のためのデータ整備

  2. データ基盤システムのつくり方

  3. データ基盤を支える組織

という構成になっている。組織やフェーズによって大事さは異なるが、個人的には1章が大事だと感じた。

データ基盤は利用者あってのものだから、ユーザ体験やユースケースに集中すべき、という指摘は納得と反省が得られる内容だった。マインド面の話と、「データの流れを書き出す」といったような戦略面の話がバランス良く書かれているが、この前に『データマネジメントが30分でわかる本』を読んでおいたおかげで幅広い議論がスっと入ってきた。

2章は技術面の話がメインになる。これはエンジニアであれば流し読みでも頭に入るだろうが、データエンジニアリングの知識が薄いならばかなりの知識が得られるだろう。『AWSではじめるデータレイク』『ビッグデータを支える技術』のような類書よりも新しい技術スタックが紹介されているのもポイントだ。具体的な記載は少ないので「実際に触る」となると別の書籍を参照したほうが良さそうだ。

3章は組織面の話がメインになる。データ基盤を実際に導入するフェーズでは組織面の話が必須となるが、ここまで具体的に書いてくれるのは非常に有り難い。「実践的データ基盤の処方箋」という書名そのままの内容だ。

全体を通して、データ基盤導入を行う担当者は必読と言える。これが3000円しないのは安いとしか言いようがない。

プロジェクト・ヘイル・メアリー

目が覚めると謎の空間。横には死体。困ったことに、自分が何者かすら思い出せない……

そんな危機的状況から始まる今作。記憶が戻っていく(下巻で理由が明らかになる)につれ、どうやらここが宇宙船で、太陽のエネルギーを食べる微生物であるアストロファージによって地球が危機的な状況だということがわかる。

ネタバレなしで魅力を伝えようと思うと非常に難しい。トリックの一つ一つが「そうきたか!」という感じで、主人公が実験を通して仮説を検証していく過程は非常にスリリングだ。

SF好きはもう既に読んでいるだろうが、SF好きではなくても是非読んで欲しい一冊だ。

バレットジャーナル 人生を変えるノート術

「忙しい」という表現は、たいてい「することが多すぎてうまく機能できない状態」にあることを指す暗号だ

という一文が良かった。著者がIT業界に近い人間のおかげか、出てくるテクニックや考え方はアジャイル開発であったり、コンピュータのアナロジーで考えられるので腹落ちしやすい。引用した一文も、システムが「ビジー」である時の原因は処理速度だけではなく、タスクの待ちが多いことも原因であると知っていればすっと理解できる。

バレットジャーナルの「How」についての内容は全体の1/4くらいで、あとは体験談とどうでもいい自己啓発が薄く引きのばれて書かれているのだが、Howの部分が★5、それ以外が★1の間をとって★3といったところ。

ここ数年はデジタルでの管理をやってきたが、ちょっと行き詰まりを感じているなかでアナログへの回帰を狙って読んでみたので実践してみたい。

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