調整と手のお話

達人調整について、という話は一旦置いておいて、今回は手の話です。


ゆる体操を習い始めると、「手で身体をさする」という体操がたくさん出てきます。
この、「手でさする」という技術はいまや、自分をゆるませるのに必須不可欠の手法であると同時に、達人調整の入口にもなっています。

現代社会では、科学技術の進歩とともに身体接触という文化が急速に失われつつあります。「さする」という体操は、その豊かな身体接触の世界を取り戻す体操でもあるわけです。


私は大学から武道や武術の稽古をはじめたわけですが、その中で気づいたことの一つが、

「ただ触れるだけにも技術がある」

ということでした。
相手に抵抗させる反応を起こさせない触れかた、接触部位の圧力を強めずに重心や体幹をコントロールする触れかた、隙間なく密着させて一体化するような触れかた、相手の力を抜く触れかた、などなど。
掴む、打撃する、物を使うというようなことを含めれば、膨大で豊かな技術がそこにあります。


手のトレーニングは武術だけでなく、もちろん調整において非常に重要です。なにしろ「手技」という言葉があるように、身体調整は基本的には手で行われるわけですから、多種多様に手を使えるようにならなくてはなりません。
日々のトレーニングでも、さらにゆるむように、さらに使える手になるように鍛錬を続けているわけですが、そのときによく思い出すエピソードがあります。


以前、運動総研で調整をしていたときに、ときおりお客様からこういう質問を受けることがありました。

「高岡先生から何か特別に、個人的な指導とかしてもらっているんですか?」

と。
その答えは「NO」です。

高岡先生には、選手の調整などで2〜3回ほど個別に指導していただいたことはありますが、基本的には一般の受講生と同じように、講座で教えてもらうことが全てです。
講座ばかりではなく、食事会などに呼ばれることもあり、いろいろ質問したりする機会もありましたが、そのときも基本的にトレーニングの具体的なことや調整の技術のことを質問したりすることはありませんでした。講座で十分に指導していただいているわけですし、そこから先は自分の努力、と思っています。

その数少ない個別の指導のときに言われたことで、特に印象に残っている言葉があります。

お前はまだまだ手が硬い。
はじめてのお客さん、トレーニングとかしていない普通のお客さんでも、調整で相手に触れた瞬間に、

「触れられた感じが全然違う! 」

と思われるほどに鍛錬しなくてはダメだ。

というものです。

確かに高岡先生の手は普通の人の手とは全然違います。赤ちゃんのように柔らかいけれども、骨を効かせて使うこともできる。柔らかく、優しい、使える手です。

このときのことを胸にトレーニングを続け、私も当時に比べれば圧倒的にいい「手」になってきましたが、まだまだです。

今日も手をさすりゆらしゆるめながら、究極の「使える手」をめざしてトレーニングしております。


調整に興味を持った方はこちらへどうぞ。
身体調整室 https://www.chosei-shitsu.com/

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