著作権法ブログ・大熊裕司(弁護士)

虎ノ門法律特許事務所の代表弁護士をしています。著作権法の整理をするブログです。記載する…

著作権法ブログ・大熊裕司(弁護士)

虎ノ門法律特許事務所の代表弁護士をしています。著作権法の整理をするブログです。記載する記事は、関心のある分野が中心となります。 https://www.toranomon-law.jp/ https://meiyokison.toranomon-law.jp/

最近の記事

引用の抗弁

条文の確認 著作権法32条は、引用について規定していますので、条文を確認してみましょう。 第2項は、国の機関等が作成し、一般に周知させることを目的として作成し、公表した著作物に関しては、説明の材料として新聞、雑誌その他の刊行物に転載することができることを規定したものです。 具体的には、防衛白書、警察白書などの著作物を刊行物に転載することができる根拠条文となります。 ただし、転載を禁止する旨の表示がある場合は、許諾が必要ではありますが、転載を禁止する旨の表示がなされることは

    • 著作者人格権(公表権)

      著作権法では、著作権以外にも、著作者人格権が規定されています。著作者人格権は、著作者が自ら創作した著作物に対するこだわりを保護するもので、人格的利益を保護する権利として規定されています。 そのため、財産権である著作権とは異なり、著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することはできないと規定されています(著作権法59条、以下では単に条文数を記載します)。 (著作者人格権の一身専属性) 第五十九条 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。 著作者人格

      • 「写り込み」・「写し込み」問題

        「写り込み」・「写し込み」とは日常生活や日常的なビジネスの場において、他人の著作物が写り込んだり、あるいは、他人の著作物を敢えて写し込むこともよくあります。 一般に、前者を「写り込み」、後者を「写し込み」と呼んだりします。「写り込み」の具体例は、子供の写真を撮ったところ、子供の着ていたシャツに、人気のキャラクターがプリントされていたような場合です。「写し込み」の具体例は、子供の写真を撮るときに、子供に人気のキャラクター人形を持たせて、撮影するような場合です。 こうした「写り込

        • レコード製作者の権利

          レコードとは著作権法2条1項5号では、「レコード」とは、「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。」と定義されています。 LPレコードやSPレコードなどのアナログ型のレコードのほか、CDや携帯型USBメモリなども含みます。 「(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)」という除外規定がありますので、例えば、音と映像が一緒に記録されているDVDビデオ等は除かれています。 レコード

          実演家の権利

          実演とは何か著作権法2条1項3号では、「実演」とは、「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。」と規定されています。 舞台で演劇を演じたり、曲を演奏したり、歌ったりする行為は、著作物を利用しているのですから、イメージしやすく、実演に該当することは明らかです。しかし、括弧書きで、「(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するも

          著作隣接権制度

          著作隣接権とは著作権法では、文化の発展に資するように創作活動を奨励し、著作物を創作した者に著作権を与え、強い保護を与えています。しかし、著作権者のみを保護しても著作物が伝達されることはなく、伝達行為を行う者がいてはじめて、著作物は広く行き渡るのが実際です。 こうした著作物の伝達行為は、多大な労力や費用がかかるものであり、伝達行為を行う者に対しても一定の権利を与えないと、著作物が広まることはありません。そこで、著作権法は、「実演」、「音の固定」、「放送」、「有線放送」という形で

          ありふれた表現

          「ありふれた表現」とは裁判例を見ていると、ある表現の著作物性(創作性)を否定する場合の表現として「ありふれた表現」という言い方がされます。「創作性が認められる」ことの裏返しの表現なのですが、そのように言われた表現者からすると、気持ちの良い表現ではないことは間違いありません。 「ありふれた表現」とされることが多いパターンは、表現が短く創作性が発揮しにくい場合、アイデアを表現する方法が限定されている場合などがあります。 短文の場合短文については、「ありふれた表現」と言われること

          リンクと著作権

          リンクとはリンクには、大きく分けて、「ハイパーリンク」と「インラインリンク」があります。「ハイパーリンク」とは、文書データなどの情報資源の中に埋め込まれた、他の情報資源に対する参照情報を意味します。リンク元をクリックすると、参照ページとしてリンク先のページが表示される仕組みです。 例えば、私の「虎ノ門法律特許事務所」のホームページのURL「https://www.toranomon-law.jp/」をクリックすると、「虎ノ門法律特許事務所」のホームページが表示されます。 この

          著作権の譲渡と許諾

          著作権の譲渡と許諾の区別自分が作成した著作物を第三者に利用させる形式としては、①著作権を譲渡する方法、②著作権の利用許諾をする方法があります。なお、著作権は、支分権の束で成り立っていますので、必ずしもすべての支分権を譲渡したり、利用許諾をする必要はありません。例えば、作家が出版社と書籍の出版に関して契約をするときに、電子書籍の販売は自分で行いたいということであれば、インターネット販売に必要な権利(公衆送信権)については、譲渡や許諾の対象から外しておけばよいのです。 契約書を

          著作物の個数

          著作物の個数を意識的に検討したり、判決で具体的に言及されることは少ないですが、著作物の個数が原告の主張・立証、また被告の反論・反証にも影響することがあり、著作物の個数を意識することは訴訟の組み立てにおいても有益だと思われますので、教科書等ではあまり触れられていませんが、著作物の個数について考えてみたいと思います。 創作的表現説と作品説創作的表現説とは、創作的表現が認められれば、作品の一部であっても著作物と認める考え方です。創作的表現説は、著作権法2条1項1号が「思想又は感情

          著作者の立証

          著作者の推定著作権法14条は、「著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。」と規定しています。 著作権法17条2項は、「著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。」と規定し、無方式主義を採用していることから、著作者

          著作者の認定

          著作者とは著作者とは、「著作物を創作する者をいう。」(著作権法2条1項2号)と規定されています。また、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法2条1項2号)と規定されています。 このことから、著作者とは、創作的な表現を作成した者を意味すると理解できます。 智恵子抄事件智恵子抄事件(最判平成5年3月30日・裁判所ウェブサイト)は、高村光太郎の詩集「智恵子抄」の編集著作者が光太郎なのか、「智恵子抄」

          「表現上の本質的な特徴を直接感得する」ことの意味

          江差追分事件 江差追分事件(最判平成13年 6月28日・民集 55巻4号837頁)は、以下のように判示しています。 「言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。」(判旨1) 「著作権法は、思想又は感情の創作

          「表現上の本質的な特徴を直接感得する」ことの意味

          間接依拠

          間接依拠とは、二次的著作物(翻案物)を参考にし、その中に現れた原著作物の創作的表現を参考にしたときは、原著作物の表現にも依拠したことになるという考え方です。(三山裕三編「著作権トラブル解決実務ハンドブック」245頁) 著作権侵害訴訟で、被告が、自分が依拠したのは原告著作物の二次的著作物であり、原告著作物には依拠していないなどと主張されることがありますが、そのようなときに「間接依拠」の問題が生じます。 パンシロントリム事件(大阪地判平成11年7月8日・判時1731号116頁)は

          依拠

          著作権侵害が成立するためには、著作物が別の著作物に依拠していることが必要です。 このことを明らかにして判例(ただし旧法下の判例)が、ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件(最判昭和53年 9月 7日・民集32巻6号1145頁)です。 最高裁は、「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、そ

          アイデアと表現の区別

          著作物著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(法2条1項1号)と規定されています。 すなわち、アイデアがいかに独創的であったとしても、その表現が「創作的」といえない限り、著作物とはいえません。もっとも、この「創作性」は、学術的、芸術的に高度なものが要求されているわけではなく、個性が現われていれば足りるとされています。 「思想又は感情」についても、高度な思想や感情に基づくものが要求されているのではなく、人