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#88 COVID-19罹患後に生じる症候群と腸内細菌叢の関係。香港中文大学の研究から。

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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、新型コロナウイルス感染症=COVID-19に感染した後に生じる新型コロナウイルス感染症罹患後症候群(Post-acute COVID-19 Syndrome: PACS)と腸内細菌叢についての観察研究です。PACSに罹ったヒトは、呼吸器系、精神神経系、消化器系の症状を訴えます。PACSは、ここ1年で知見が蓄積されてきたといえます。PACSと腸内細菌叢は、どのように関係しているのでしょうか?

今回紹介する研究は、Liu Q, Mak JWY, Su Q, et al., Gut microbiota dynamics in a prospective cohort of patients with post-acute COVID-19 syndrome, Gut 2022です。

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新型コロナウイルス感染症罹患後症候群

改めて、PACSとは何かから解説します。PACSはPost-acute COVID-19 Syndrome、日本語では新型コロナウイルス感染症罹患後症候群と呼ばれます。症候群とは、原因は明らかとなっていないが共通の症状を示すような場合に、それらを総称してまとめるために存在する分類です。

PACSの症状としては、呼吸器系(咳、痰、鼻づまり・鼻水、息切れ)、精神神経系(頭痛、めまい、味覚障害、嗅覚障害、不安、集中困難、睡眠困難、悲しみ、記憶力低下、目のかすみ)、消化器系(吐き気、下痢、腹痛、上腹部痛)、皮膚系(脱毛)、筋骨格(関節痛、筋肉痛)、疲労などが存在します。

今回の研究は、香港中文大学による3つの病院を対象とした前向きコホートの研究で、観察対象となった106名のCOVID-19患者の内で76%が罹患後6ヶ月にPACSを訴えています。コホートや治療方法、その他の要因があるので、日本でもこの結果が有効かは不明ですが、少なくともかなりの割合のCOVID-19患者は罹患後も心身の不調に悩んでいます。

研究の方法

今回の研究は、中国香港のPrince of Wales病院、United Christian病院、Yan Chai病院にて実施されています。COVID-19に罹患した患者を2020年2月1日から8月31日に募集し、罹患者は皆同じ抗生物質(アモキシシリン・クラブラン酸塩)の投与をされています。

本研究におけるPACSは、SARS-CoV-2が消失してから4週間後に、何らかの診断で説明できない症状が少なくとも1つ以上持続していることと定義しています。発症後3カ月および6カ月に、PACSとして観察される症状の有無を評価するとともに、腸内細菌叢の解析を行います。比較するのは、重度のPACSにある患者106名と、COVID-19に罹患していない対照者68人のショットガンメタゲノム解析結果です。

比較の結果からPACSに特徴的な腸内細菌叢が観察された

調査の結果、COVID-19に罹患した患者は罹患後 6ヶ月時点で76%がPACSを発症しており、最も一般的な症状として疲労、記憶力低下、脱毛が確認されました。

COVID-19に感染していない対照群、PACSがないCOVID-19罹患後から6ヶ月が経過した群、PACSにあるCOVID-19罹患後から6ヶ月が経過した群の腸内細菌叢を比較しました。すると、感染がない対照群とPACSがない群の細菌叢は主座標解析にて類似しており、PACSがある群においては細菌叢は離れていました。これはつまり、PACSの方がもつ腸内細菌叢は、特徴的であることを示しています。PACSの方の腸内細菌叢を特徴づけていたのは、Ruminococcus gnavusやBacteroides vulgatusなどでした。

時系列ごとに結果を比較すると、COVID-19に罹患した患者の腸内細菌叢は、6ヶ月の時間を経ると対照群、つまりCOVID-19に罹患していない患者の腸内細菌叢に類似していきました。

細菌叢と関連する患者のメタデータやPACSの項目について調査すると、患者のメタデータについてはCOVID-19の重症度が、PACSとしては胃腸症状や呼吸器系の症状が関連することが示唆されました。

細菌叢の特徴をまとめると、PACS患者の腸内細菌叢は、Ruminococcus gnavus、Bacteroides vulgatusのレベルが高く、Faecalibacterium prausnitziiのレベルが低いことが示唆されました。

興味深いのは、神経精神症状および疲労はClostridium innocuumおよびActinomyces naeslundiiを含む腸内細菌と相関していた点です。また、Bifidobacterium pseudocatenulatumおよびFaecalibacterium prausnitziiの酪酸産生菌の存在量は、6か月後のPACSと最大の逆相関を示したということです。

観察研究から考えられること

腸内細菌叢は、ヒト腸管と物質的なコミュニケーションをすることで、免疫系の制御に関連することが明らかとなっております。今回の結果は観察研究のため、腸内細菌叢の与えるPACSへの影響にまでは言及できません。しかし、何らかの因果関係があるとするならば、PACSを改善するような腸内細菌叢への介入、例えばプロバイオティクスやFMTなどが考えられるかもしれません。

腸内細菌叢とCOVID-19罹患後の症候群の関係に注目した面白い論文でした。

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

Liu Q, Mak JWY, Su Q, et al., Gut microbiota dynamics in a prospective cohort of patients with post-acute COVID-19 syndrome, Gut 2022;71:544-552.

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