自作曲「エレメンタリー feat. 宮舞モカ」を解説するぞ
まいど、ちょむPです。令和になっても相変わらずボカロPのようなことをやっています。
先日「エレメンタリー」という曲を発表しました。動画はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=nkMYEFRBFo4
この曲は、9月26日に発売になるSynthesizer V AI 宮舞モカ の公式デモソングとなっております。
https://www.ah-soft.com/synth-v/moca/
一般的に作者による自作品の解説というものは野暮なものです。ですのでいままで極力しないほうが良いと考えて来ました。しかしこの曲は自分にとって少し特別で、時間をかけ試行錯誤してちりばめた要素が多くあるのでそれらを知って貰いたいということ、また知って貰うことでこの曲本来の目的である、宮舞モカというキャラクターを知ってもらう手助けになるのではと思えることから、今回解説記事を書くことにしました。
※注:デモ曲PVはAHSからの依頼を受けて制作しておりますが、この記事は完全に個人的な動機により執筆しています。
宮舞モカと私
さて、宮舞モカというキャラクターですが、実は私はモカさんの企画、制作段階から関わらせて頂いております。基本的はAHSの担当さんが中心になって進めて頂いている中、私はキャラクター設定、名前、中の人といった基本的な要素をいっしょに考えたり、収録のディレクションや出来上がった試作ソフトに物申す等といった点で、お手伝い程度ですがご協力させて頂いており、私以外ではTOKYO6ENTERTAINMANTの赤迫氏、弦巻マキをはじめとしたAHS初期キャラクターを生み出した櫻井氏もプロジェクトに参加しています。ただ今回のデモ曲制作も含め、VOICEPEAKの紹介動画の作成など、実際にソフトウェアを「使ってみる」という、スタッフの中では割とユーザーに近いところで関わらせて頂いているように思います。
その過程で――具体的には、スタジオ収録で中の人である峯田茉優さんの歌声にただひたすら圧倒され続けていた時から――SynthV 宮舞モカは間違いなく「これまでの世の中になかった、すごい歌声DB(データベース)になる」という確信がありました。ですのでデモ制作の依頼を受けた時から、なんとかその魅力を引き出せないか、その方法を模索しておりました。
一応付け加えておきますが、スタッフ特権を振りかざして「デモ作らせろ!」と自分から押し売りしたわけではなく、ちゃんと他スタッフからの推薦を受けてデモ制作Pの末席に加えて頂いたわけでして…そこはしっかりとアピールしておきたい。
宮舞モカの設定を活かす
モカの設定の要素といえば、陰キャ(※非公式な表現)で、ネットDJで、英国帰りで、猫、紅茶、探偵ものが好き…といったものがあります。キャラクター性のアピールのためにも、これらの設定をなるべく活かしたいと思いました。
まずDJという設定を活かすには、(これは同時にデモ曲を依頼する他のPさん次第でもあったのですが)やはり私が今作るべきは、今回のこのデモ曲自体がクラブでかけられるような「ハードめなダンス曲」であるべきだと考えました。そのために時間をかけて検討をしていました。いくつか既存曲をモカに歌わせてみて方向性を模索したり…最近流行りのダンス曲を聴いて勉強したり…。とはいえ数十年やってきた自分のスタイルを崩すのはそう簡単な話ではないので、出来る範囲で寄せた、という形にはなりましたが…まあ概ね満足しています。ボカクラDJに使ってもらえたら嬉しいですし、もし宮舞モカがDJとして皆の前に立つ時、この曲がかかったらいいですねえ。
ちなみにこの曲のためにDAWもこれまで愛用していたStudioOneから、ダンスミュージック制作に定評のあるFL Studioに乗り換えて制作しています。DAWを変えることで、はっきり音が変わるということはないし、どちらかというと乗り換えの負担のほうが大きかったようにも思えますが、テンションの持ちようは違ったかなと思います。
残る設定要素のうち、英国、探偵もの…といえば、もうこれは説明不要、名探偵シャーロック・ホームズを出すしかない、ということでホームズ全集をKindleで一気買いし、歌詞の内容にこれでもかとホームズネタを詰め込みました。歌詞の解説は後述します。また陰キャ要素についても…誘い受けな内容の歌である点で陰キャを表現できているという脳内意見も。
残る猫、紅茶については活かしきれなかったのが悔やまれますが…少なくとも猫要素についてはイラスト担当ジンベイさんが猫モカを描いてくださったので、曲中やサムネに活躍して貰ってます。
歌声DBとSynthVの性能を活かす
自然でかつはっきりとした裏声の切り替わり、Powerスタイルの暴力的なまでに力強い声と高音の伸び、Softスタイルの吐息混じりの歌声など、幅広いスタイルを持つ上に、これらをシームレスに重ね合わせられ、峯田茉優さんの素晴らしい歌唱力を高いレベルで再現できるというのがSynthesizerV 宮舞モカの大きな特徴です。これらの特徴がよく伝えられるようなメロディづくりにも苦心しました。例えばサビには高めの力強いメロディ、逆に間奏の少し力を抜いた裏声多めのパートなど。低音から高音にかけて自然に力が入っていくようなスタイルの移りかわりや、語尾のしゃくりあげも適宜挿入していますが、これは峯田さんの歌い方を真似ている部分も多くあります。
また私はDreamtonics社からSynthesizer Vの(新)機能の紹介動画を制作する一連の仕事も受け持っていましたので、SynthVの各機能には人より多少詳しいという自負もありました。そのなかで、SynthVに最近実装された目玉機能「マルチリンガル」「ラップ」の2つ…すなわち、宮舞モカの圧倒的な歌唱力と豊かな表情に加え…
宮舞モカは日本語歌声DBだけど、英語も歌える!
宮舞モカはラップも出来る!
という点でも宮舞モカという歌声DBに魅力を感じて貰えたらと考え、これらの要素を曲に詰め込みました。
たとえば間奏部分の「Abduction」「Detection」は英語モードにして歌わせた結果です。日本語モードではこの発音はできないでしょう。
そしてラップ。ラップの作詞はほとんどやってこなかったのですがラッパー晋平太氏の本などを読んで勉強しつつ作ってみました。結果的には詰めが甘く若干心残りです。でも作ってみて思ったのですが韻を優先して言葉選びをするラップは意外と自分に向いているのかもしれません。せっかくSynthVを使っているのですから今後は積極的にラップを取り入れてみようと思います。
おわりに
以上のように、今回の曲「エレメンタリー」は、宮舞モカの魅力や性能をなるべく引き出そうと自分なりに試行錯誤して制作した一曲となっています。ぜひこれらのポイントに注目して聴いて貰えるとありがたいです。そしてSynthesizerV 宮舞モカの歌声が気に入った方は、ぜひ購入を検討してみてください。宮舞モカはいいぞ。
https://www.ah-soft.com/synth-v/moca/
特大ふろく・歌詞の元ネタ解説
以降の内容は、もはや純粋に「自分が語りたい」だけなので、興味がない人は読まなくていいです。
以下がエレメンタリーの歌詞です。
※以下、ホームズネタの解説が入りますが、私もかなり短期間のうちに調べたニワカなので多少の間違いはご容赦ください。
まずタイトルの「エレメンタリー」ですが、数々の舞台やドラマでホームズの決めセリフとされている「Elementary, my dear Watson.」から来ています。訳も作品で変わりますが「基本だよ、ワトソン君」とか「初歩的なことだよ、ワトソン君」等と言われています。実際にはコナン・ドイル著の本編でこのセリフは使われなかったようですが、 "Elementary" という表現単体であれば何度か原作ホームズも言っています。
またこの歌で鍵になるのはサビの「ただ見ているだけじゃなくて/もっと深く観察して」という箇所です。これは「ボヘミアの醜聞」に登場するセリフ「You have not observed. And yet you have seen.(君は見てはいるが観察はしていないのだよ)」から引用しています。この歌の建付けとしては、このセリフを元ネタにして女性のほうから相手(あえて性別には触れない)に注目して欲しい旨を迫る女性視点のラブソングという形になっています。
その他、歌詞の多くでホームズの名言から引用しています。こんな感じ。(訳の引用は角川文庫、新約版シャーロック・ホームズ。駒月雅子、石田文子訳より)
横たわるは明白な事実/シンプルに見えるほど/キミにとって悩ましい事件:「事件の異常さというのは、それ自体が手がかりになることが多いんだ。特徴のない平凡な犯罪のほうが解決するのは難しい。」(ボスコム谷の惨劇)「明白な事実ほどあてにならないものはないんだよ」(ボスコム谷の惨劇)
この胸の感情を排除しては成し得ない:「だが、恋愛とはしょせん感情の産物であり、感情のうえに成り立つものはどれも、僕がなによりも重んじる純然たる冷静な理性とは相容れない」(四つの署名)※原文と逆のことを言っています。ホームズは恋愛に縁がなかったので、ラブソングとしてあえて逆にしました。
Abduction:ホームズの推理の方法は「アブダクション(仮説推論)」だと言われています。
まるでキミはブルーカーバンクル:作品名「青い紅玉(The Adventure of the Blue Carbuncle)」より。訳者によって「青いガーネット」「青い柘榴石」「蒼炎石」などと訳されているので、あえて英語のまま使いました。
その飾りなだけじゃない頭で:「頭は使うためにあるんだ。ただの飾りじゃない。」(緋色の研究)※これは劇中ボンクラな警察官に向けてホームズが皮肉を効かせて放ったセリフですが、歌の中でもいい味出たなと思っています。
全てを受け入れよう喜んで:「あんたを破滅させられるなら、世の中のために喜んで破滅を受け入れる」(最後の事件)
真実は不可能を排除して残るもの:「あてはまらない事柄をひとつひとつ消去していけば、最後に残るのが事実にほかならないのさ」(四つの署名)
ボク達を繋ぐ糸は緋色(スカーレット):タイトル「緋色の研究(A Study in Scarlet)」より。劇中だと「緋色の糸」とは「殺人」だと言っていますが、「運命の赤い糸」と絡めるためと、殺人=事件=謎がふたりを繋いでいる、という意味に拡大解釈して採用しました。
蛇足ですが「偏見で出来た常識」という言葉、ホームズのどこかで出てきた言葉だと思いこんでいたんですが、よく調べてみるとアインシュタインの言葉「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションである」でした。でも語呂がよかったのでそのまま使っちゃいました。
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