「8月21日掲載のお詫びについて」について

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目次
1.「8月21日掲載のお詫びについて」
2.suimon氏とマイナビ出版の和解について
3.マイナビ出版の文書に対する批判
4.読者への説明責任
5.駄目な組織とどう関わるか
6.その他
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1.「8月21日掲載のお詫びについて」

 2018年10月9日、マイナビ出版から「8月21日掲載のお詫びについて」という文章が発表された。

2018年8月21日に掲載いたしました「『コンピュータ発!現代将棋新定跡』についてのお詫び」において、 誤解を招く表現がございました。本書の著者であるsuimon様をはじめ、関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを、心よりお詫び申し上げます。
株式会社マイナビ出版

引用:将棋情報局

↓著者のsuimon氏の反応

 マイナビ出版が延々と無視を続け、長期化する可能性もあった。最低限ながらも対応をしたことに対しては評価したいと思う。僅かばかりながらも評価をしているのは、マイナビ出版に対する期待度が無に近い状態にまで落ちていたからだ。


2.suimon氏とマイナビ出版の和解について

 suimon氏とマイナビ出版の和解に関しては、これを機に進むのではないかと予想される。もちろん、今までそう思っていて裏切られてきた経緯もあるので断言はできない。しかし、8月21日の詫び文掲載後初めて目に見える形で事態が進んだというのは事実だ。今後、近いうちにsuimon氏とマイナビ出版が直接会い、謝罪や和解についての話が持たれるのではないかと思う。

 私自身は「詫び文の撤回」を第一義にマイナビ出版に対して抗議を行ってきた。で、今回のマイナビ出版の対応なのだが微妙と言わざるを得ない。「誤解を招く表現がございました。」と曖昧な表現にとどまっており、撤回も訂正も行われているとは言い難いからだ。(次の節で詳しく書く)

 ただ、交渉においては前進したのだ。suimon氏とマイナビ出版の二者が完全和解に至った場合、何が問題として残るかを見極める必要があるだろう。


3.マイナビ出版の文書に対する批判

参考:詫び文……削除、訂正、撤回等は行われていない。(10月10日確認)

 将棋ソフト開発者の平岡拓也氏のツイートをはじめ、当然の反応だと思う。私もこうツイートした。

 霞が関文学というか、なんとなく気持ちを表現はしているが何も言っていない文章だからね。

マイナビ出版はより明確に説明すべき」というのが本件を見てきた人達の総意であると思う。

 私の感想である「現在、千田翔太棋士はこの件に関与しているのか」というのは彼が強く何かを主張し続けていない限り現在の状況になるとは考えにくいからだ。

 10月1日に千田氏に質問を投げかけているが返答はない。

 マイナビ出版が外部からの批判と千田氏の主張の板挟み状態にあり、外部からの力が予想以上に強くなったため、今回の対応に至ったというのは比較的合理的な推測であると思う。


4.読者への説明責任

 suimon氏とマイナビ出版の2者間での和解成立後に残る問題は、マイナビ出版の読者への説明責任だろう。また、今後の書籍執筆者への説明責任というのも残る。この説明責任は「コンピュータ発!現代将棋新定跡」の何が問題で、何が問題でなかったかを明確に提示することで果たされる。

 ひとつの説明としては平岡氏が推測されれているように「マイナビ出版の書籍において、参考文献で定跡ファイルに言及した場合、引用の明示が必須となる」というものだ。これは、マイナビ出版の書籍が参考文献に定跡ファイルを記載しないということで一貫性を保つことが可能である。「現代将棋新定跡」だけがアウトになる特殊な線引きだ。かなり愚かで恣意的な線引きではあるが、全く説明しないよりはましだろう。

 何か説明をして、批判を受け、修正しながら基準を作っていく――というのが好ましい。たとえ愚かであっても、そのプロセスが踏まれれば多くの人が納得できる基準が作られていく。(最近「粗にして野だが卑ではない」という本を読んだ。「卑ではない」というのはものすごく大切だと思う)

5.駄目な組織とどう関わるか

 マイナビ出版が読者への説明責任を果たさずうやむやにしてしまうというのは十分に予想される展開ではある。そうなった時に私は何をすればよいだろうか――。自分の考えはこのnoteに全て書いている。影響力にも限界がある。私が本件に対してできることはそう多くない。

 結局、「駄目な組織とどう関わるか」という問題に行き当たるのだ。これには2つの考え方がある。駄目な組織を外部からの批判によってまともに機能させようという考え方と、駄目な組織に見切りをつけて新しいものを見つけたり作ったりしようという考え方だ。私は本来圧倒的に後者の人間である。

 マイナビ出版も多くの人に批判してもらっているうちが華だ。批判者はマイナビ出版がまともな判断をする企業になれると期待している。将棋書籍出版の最大手として道を示してくれると信じている。マイナビ出版が説明責任を果たさない場合、もはや業界における中心的地位を捨てたとみなしてよいと思う。指針を示す能力や問題解決能力がないなのだから。

 今回、実名ベースで批判を行った人は少なかった。将棋界に近ければ近いほどものが言えなくなる。これは賢明ではあるが、健全ではない。内部の人間、近い人間こそ今あるものを機能させるべく働きかけを行うべきだった。この種の構造は将棋界だけの問題ではなく、日本的組織の問題でもある。風通しのよいオープンな組織への転換を行わず、同時にかつての家父長的組織特有の問題解決能力を喪失している。しわ寄せはブームが終わった後に来る。


6.その他

 本件の発端から現在まで千田翔太棋士の行動・対応は最悪だった。将棋界内で地位の上下による理不尽が通ってしまうことはあると思うが、アマチュアに対してそれをやるのは前代未聞。師匠なり先輩なりが「千田君、それはあかん」と言わないと駄目なんだ。加藤一二三先生は大天才でありながら問題点も多い棋士であった。しかし、周囲のサポート・プロデュースによって現在芸能界で大成功をしている。千田氏も将棋は強いし、優れたところもあるんだから周囲が駄目な部分をコントロールしてあげなくちゃいかんよ。マイナビ出版も周囲の人間も千田氏のことを大切にしていないじゃないか。千田氏がタイトルホルダークラスであれば、矢面に立つようなことはさせないはずだし、早期収拾が図られたはずだ。たとえ今回無理筋が通ったとしても、次に彼が何かで炎上した時に確実に蒸し返されることになる。三浦九段冤罪事件で2アウトぐらいで、本件で0.5アウトぐらい。限界に近いんだよ。千田氏本人に外野が色々言っても届かないんで、近い人がなんとかしてやってください。

 私にしろ、suimon氏にしろとにかく人間としてかなり甘い。それはこのnoteを通して読まれてきた方にはおわかりいただけると思う。本件の当事者が「メチャクチャ厳しい人達」であったならば、マイナビ出版も千田氏も燃やし尽くされていたのではないか。今回、マイナビ出版や業界がまともな対応をすることを期待してプロセスを踏んだ。この判断は間違いではなかったと信じたいが、次に似たようなことが起きた場合は炎上させて一気に倒すのが正解になるような気がする。

 私は作家、小説家の端くれではあるがそこまで影響力を持っている人間ではない。SNSなどで多くの人が本件について指摘を行ったことが事態を動かしたのではないかとみている。(いくつか問い合わせも行ったので、水面下でどこのどのような力学が働いたかは謎ではある)
 私にも至らないところ、甘いところがあるので引き続き皆さんのお力をお借りしたいと思う。(私に指摘……というよりはできればマイナビ出版等に直接言ってやってください)

(つづく、早く最終回が書きたい!)


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小説家/yomyomで将棋小説「覇王の譜」連載中/小説すばる新人賞「サラの柔らかな香車」/公式ブログhttp://chodo.work/ねとらぼライターページhttps://www.itmedia.co.jp/author/217346/

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現代将棋新定跡をめぐる問題に関して
現代将棋新定跡をめぐる問題に関して
  • 13本

「コンピュータ発!現代将棋新定跡」(suimon マイナビ出版)に対してプロ棋士・千田翔太六段が抗議を行い、マイナビ出版が詫び文を出した事件の経緯と論点を綴っていきます。

コメント (1)
橋本さんの論理的明快で緻密な分析、全て読破させていただきました。僕は頭が悪いので、俗的な賛辞として、下町ロケットを読んでるような感覚で、読み進めていました(笑)。お笑いの世界にも、ネタの著作権など、非常にあやふやなものがあり、一方で業界で言うところのフリー素材(この程度のことは誰が使ってもいいよね)と言われるネタもあります。非常に興味深く読ませていただきました。根底にあるのは、権力者による理不尽な横暴から守ろうとする愛と勇気だと思いました。将棋界も色々あるんですね〜。
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