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「能ある鷹も 鼠捕る猫も 爪を隠す」~中指の思い出

狩りのスペシャリストである鷹や猫は、獲物を仕留めるとき、鋭い爪を剥き出しにする。

しかし、普段はその有能さをひけらかさないよう、爪は隠しておく。

恐らく、どんな猫でも、普段から爪をむき出しにすることはないと思うのだが、

残念なことに、うちのヨタロウは、爪がむき出しになって戻らなくなったことがある。


あるとき、キャットウォークを歩いていたヨタロウが突然、足を踏み外し、あわや落下というところを、爪1本引っかけて免れた。

「お前は、本当に猫なのか?」

と疑ってしまうほど、バランス感覚の悪さに、苦笑するしかなかったのだが、後で笑い事ではすまないことになる。


ふと、ヨタロウがクッションの上でニャアニャア騒いでいた。

おもちゃとジャレているのかと思って見ると、左手の第III指、つまり中指の爪がクッションのカバーに引っかかって、もがいている。

(爪が自分で抜けないなんて、今まであったかな?)

と思いながら、クッションから抜いた爪を見て驚いた。

指先が伸びきって、だらりと力なく垂れさがっている……  

肉球つめ

※肉球に突き刺さりそうなヨタロウの爪

どうやらあの時。

爪1本で身体がブラブラした時、靭帯が切れてしまったのだ。

幸いなことに痛がる様子は全くなく、念のため引っ込むかどうか、爪のつけ根を優しく押してみたりしてみるが、爪は伸びきったまま、戻ることはなかった。

しかも、戻らなくなった爪が、肉球に刺さりそうになっている。

爪を切ろうと、使い慣れたギロチン刃を持つが、爪と肉球に隙間がなく、うまく差し込むことができない。

仕方なく、以前使っていたハサミタイプで、優しく切ろうとするのだが、こちらはこちらで、切れ味がまるでダメ。

大げさでなく、爪切りの重要性を感じた。


ちょうどその頃目にしていて、とても気になっていた「職人の爪切り」を思い切って購入することにした。

爪切りにしては、やや高価だが、それなりの理由があるので、もし興味があれば覗いてみてほしい。

その後も何度か、マットやカーペットに爪が引っ掛かってしまい、そのたびに抜いてやらなければいけなかった。

ところが、さらに2,3日して、
ヨタロウを病院へ連れて行こうと爪を確認すると、伸びきっていたはずの爪が見えなくなった。

(あれ?右手だったかな……?)

しかし、どちらのどの指をみても、爪は引っ込んでいる。

そこで、左手中指のつけ根をキューっと押して、爪を出してみる。

離すと元のとおりに引っ込む。

「???」

念のため、すべての指で試してみたが、みんな爪が引っ込んだ。

猫に、いや狐につままれたような気分。

あとで主治医に見せると、全く異常はなく、靭帯に損傷があれば痛みも出るだろうし、靭帯が緩んだり切れたりしたら、自然に戻るはずもないという。とすれば、いったいあれは……


今ではもちろん、ヨタロウの爪が引っ掛かることはなく、元気に過ごしている。

ただ、あれ以来、以前にも増して慎重になったような気がする。

決して、無理なジャンプはしない。

なにより、キャットウォークに上ることがなくなってしまった。

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いやいや、そうではない。

本当は上手に登れるのだが、爪を隠しているだけなのかも知れない……

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