美味しいは儚く尊き。ボンボンショコラの短い命〜ヤスヒロセノ〜
賞味期限は「品質が保たれて美味しく食べられるよ!」を示したものである。それを過ぎたからすぐに食べられなくなるわけではないぞ、と言い訳をしながら、自己責任で賞味期限を過ぎたものを食べることは、どうしてもある。だって、ズボラな性格なんだもの。
けれど、じゃあ賞味期限までは放置してても全然OKなの?
否!!答えは否である!!!!
ものによってはその繊細な味わいが、どんどん落ちていく。
例えばチョコレート。
チョコレートに「生もの」と使う場合には大抵「生チョコレート」のことを指す。あれは、マジで賞味期限翌日までだったりするから、生ものだ。
しかし沼の人、特にその奥地に生息する強者が「ボンボンショコラは生ものだから早く食べるが正解!!」と声高に訴えているのを時々目にする。
ボンボンショコラの賞味期限は、通常1~2週間程度。
1粒で300~500円くらいする高価なものであるからこそ、私は1日1粒を大切に、大切に味わって食べることが多かった。
でも彼らの力強い叫びに呼応して、早々に1粒食べ――そして理解する。
あぁ...生ものだ。鮮度の高いうちの輝きを損なわせてはいけない。
早く、より美味しいうちに食べなければ。
もしかすると、そんな必要は全然無いのかもしれない。
こうして毎日スイーツの好きを語ってるくせに我ながら少し悲しいかな、私の舌はそんなに繊細じゃない。
基本的に何でも美味しいと謳う。
だからさ、賞味期限を少し過ぎたチョコレートだって実際に舌の上に乗せたのなら、きっと美味しいと言うよ。
それでも、だからこそ、そういうことに拘っていきたいのだと思う。
最近、SNSで結構見かけるチョコレートがある。
ヤスヒロセノ。
チョコ界隈では有名なお店だったのだけれど、神戸なので東京在住の私は実際にお店に行った事は無かった。
チョコ自体も、以前テイスティングの中にひとかけら登場した、くらいのもの。
そのお店が今度東京に移転する、ということで、チョコの人達をざわつかせた。そんな中、新宿髙島屋で開催されている美味コレクション。
これまたチョコレート好きの中では超大人気、渋谷スクランブルスクエアに実店舗を構えてからは一層その知名度を高めているチョコ係さんのお店が美味コレクションに出展した。そして、セノヤスヒロのボンボンショコラが、販売されていた。
東京に移転するのなら、これからいつでも買えるじゃん♪
と、思うかもしれない。
私も、頭の中の理屈君はそう諭してくれたさ。
けれど、目の前にちらつかされた「美味しい」があるのなら。
それはフライング、したくなっちゃうじゃん?
シックな黒い箱に、緑色に輝くリボンやロゴ。
チョコレートはシンプルな茶色ながら、全て絶妙に違う。
線の入り方とかで、味をしっかりと分けている。
でもこれ、店員さん全部覚えるの大変そうだね???
お客さん的には、どれがどの味かな~と可愛らしいメニュー表と照らし合わせて楽しかったのだけど。
...可愛いね。
それにしても、8種のボンボン以外にも色々あるじゃないか!
出店が楽しみだーーー!
本物は、可愛い、というよりカッコイイ。
チョコレートそのものが持つ艶のある色っぽさに、食べる前からドキドキする。
ただし注意!これ、絶対常温で出してたらすぐに汗かいちゃう系のチョコだから!
欲しいヤツだけ取ったら、他は即・冷蔵庫に戻す!!
プラリネアマンド
フワリと軽い!!滑らか!!!
そうでありながら、微細なシャリシャリ食感もあって!!!
柔らかい味わい。
そして輪郭はハッキリに、アーモンドらしい個性を存分に発揮させて。
この繊細で絶妙な、儚げで力強いバランスはなんだ。
凄い...凄く、良きチョコ......。
何人かのレビューで、セノさんのチョコに迷ったらまずはプラリネ!というものがあった。あぁ、分かる。これだけでもう、他のチョコも凄く良いと思わせてくれる。
プラリネターキー
アマンドから続けて食べると、同じ「プラリネ」でも全然違うのがよく分かる。面白い。
アマンドはフワリと軽やか、フルーティーな香りを柔らかく広げた。
対してターキーは、食感が少し固めでずっしりとした滑らかさ。絡みつくような甘さとビターなコク深さのハーモニーを楽しめる。
うんうん、これはファンが続出してしまいますわ~。
ペルー
これがチョコレートの、カカオの力なんだぞと、声高に叫びたい。
レモン等のフレーバー的な酸味とは違う。でも確かに、カカオの酸味がジュワリと滲み出る。舌に乗せた瞬間に、産地にまでこだわっている洗練されたチョコレートであることが理解できる。
それが、本当に液体になるわけではないのに、喉の奥に流れ込んでくるような錯覚を覚える。
凄い...
ブラジル
!?!?
独特な、フッと広がる不思議な味わいに、一瞬思考が停止する。
チョコレートの味わいの表現にしばしば「スモーキー」という言葉が用いられるのだけれど、あれ、分かるだろうか。
相当にチョコを食べ込まなければ、なかなか出会えるものではない。
「スパイシー」という言葉は、ほのかにそんな気がする...程度でも使ったりするのだけれど、「スモーキー」はもっと顕著。かなり奇抜で、多分少し間違えば、嫌われる。一方で人々を虜にもする。
このチョコは、「そうかこれが『スモーキー』か」という感覚がよく分かる。煙というか木々の枝というか。
しかしそれは嫌な臭みでは全くなくて、ビターでずっしり、安定した味わいへと収束する。
まるでケーキを食べたかのような重厚感に酔いしれる。
ベネズエラ
珈琲のような綺麗なほろ苦さが喉の奥を潤していく。
食べている。
ちゃんとみっちり詰まっていて、その滑らかな舌触りも存分に楽しめる。
そう、確かに食べているはずなのに。
フッと「飲んでいる」という感覚になる。
苦みや甘さのバランスにどこか違和感があったり雑味が少しでもあったのなら、こういう感覚になることは無い。
その感覚になれないようなチョコは不味い、劣っている、というわけでは無いのだけれど。舌の上で転がし溶かして、その神経で、脳で、美味しさの実態を掴んでいく。そういう味わい方になる。
理屈的な味わいを超えて、実際には無い光景を魅せてくれる、錯覚を起こすようなチョコレートは、相当に繊細でハイレベルなショコラトリーでないと味わえない感覚だ。
それに出会ってしまったのなら、沼へドボンの道は近い。
シトロン
舌に触れた瞬間、本当に、瞬間の感覚...。
チョコレートの甘さよりも何よりも、最初にレモンの酸味が、あの刺激が脳に伝わる。
そうして、レモンらしいフレッシュな味わいや軽めにふわりと支えるチョコレートらしい甘さが追いついてくる。
突き抜ける酸味が凄い。
凄い体験をしたな...としばらくホゥッと息をつく。
ジャスミン
花が...脳内に花が咲いた。
ジャスミン!ジャスミンの良い香りが広がる。
癒し効果とかありそうだよね。凄く、幸せな気持ちになる。
イメージは、淑女。気品があり厳格で、優しい。
味の説明に書かれている「アプリコットリキュール」はダイレクトに味がするわけでは無いけれど、チョコレートのキャラクターをピシッと決めてくれているのに一役買っている気がする。
レザン
ラム酒の香りが、とんでもない。
甘くて喉の奥がピリリとするようなラム酒の味わい。
そして、それが広がるスピードが凄い。はやい!!
ムニッと丸ごとに乗ったレーズンも尊い。
気品を携えた滑らかな口溶けと相まって、レーズンの存在感は一層光る。
こんなの、美味しくないはずがないじゃない!!
はあぁ…尊い。
1粒1粒、シェフによる沢山の思考と研鑽の成果が詰まっている。多くのファンの、好きという気持ちが乗っている。そういう宝石みたいな輝きを放つボンボンショコラが私は大好きだ。
いつまででも眺めていたい。
しかし、愛しいそれを最高の状態でいただくのは、食べる人として、シェフやそれに関わる人たちへの感謝の示し…というか普通に美味しい状態で食べたいよね!!
美味しさとは、儚く、そしてやっぱり尊い。
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