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コミュニティが事業成果と組織文化に効く理由をループ図で解説!

コミュニティの目的とは、なんでしょうか?

例えば地域コミュニティは文化の伝承や住民の豊かな暮らしのためにあると言うことができるでしょう。また、共通の趣味を持つ人が集まったコミュニティはそれを一緒に楽しむことが目的であると言えます。

これらの自然発生的なコミュニティは、人々の生活や興味関心から自然と生まれてきたものです。しかし、近年では、特定の目的を持って意図的に作られるコミュニティが増加しています。こうして「デザインされたコミュニティ」は従来のコミュニティの概念を拡張し、新たな存在価値を示しています。

その一つが企業の主宰するコミュニティです。企業の商品やサービスのファンが集まるコミュニティや、キャリアチェンジや学びなどの共通の目的を相互に支援するコミュニティなどがあります。

では、なぜ企業はコミュニティを運営するようになってきたのでしょうか?このことについてはすでに多くの記事や著作が世の中にあるので詳細はそちらに譲り、今回はこの問いについて1枚のループ図で捉えられるようにまとめてみました。

ループ図とはシステム思考(※)におけるツールの1つです。複雑な事象をシステムとして俯瞰し、関係性から捉えることができます。今回公開するループ図は正式な書式ではないのでご了承ください。ただ、企業におけるコミュニティの存在価値を理解するには十分だと考えています。

それではいきましょう!

※システム思考は複雑な問題を単純化せずに全体像を把握する手法として、経営戦略や組織開発の分野で広く活用されています。ピーター・センゲの「学習する組織」の概念でも中心的な役割を果たしており、相互に関連する要素間の関係性を可視化することで、より効果的な意思決定や問題解決が可能になります。



企業とコミュニティのループ図

このループ図が企業とコミュニティのシステムを表現したもので、さきほどの「なぜ企業はコミュニティを運営するのか?」という問いへの答えとも言えます。字が小さくて読みにくい場合は拡大してみてください。

コミュニティの持続的な成長(青背景部分)が、事業成果や組織文化(ピンク背景部分)にどんな影響を与えるのかを一覧できるループ図になっています。以下に各項目について解説していきましょう。図のなかで該当する部分を黄色く表示するので参照しながら読んでいただけたらと思います。


①オンライン活性化/オフライン活性化

オンラインとオフラインの両方を組み合わせることでコミュニティを活性化できることは以前の発表でも示したとおりです。例えば、オンラインでの日常的な情報交換や議論を基盤としつつ、定期的なオフラインイベントで直接的な交流を促すことでメンバー間のつながりを深め、コミュニティへの帰属意識を高めることができます。詳細は以下のnoteをご覧ください。

コミュニティが活性化することによってメンバーの自主性が向上し、熱量を具現化する「②共創プロジェクト」に発展したり、メンバーの自主性向上によって「③良質なVOC/UGC」の発生につながります。


②共創プロジェクト

①オンライン活性化/オフライン活性化」の結果、その熱量に後押しされて企業とコミュニティの共創プロジェクトが立ち上がることがあります。

共創プロジェクトを通じて企業の商品やサービスのマーケティング施策が実現したり商品開発としてカタチになることも多いため「⑤事業成果への貢献」につながっていくのです。また、共創プロジェクトを進めていくなかでコミュニティメンバーと社員はコミュニケーションを深めていきます。こうしたコミュニケーションによって社員の顧客理解が進み当事者意識が向上することで「⑥組織文化と意識の変容」が実現することも見込めます。


③良質なVOC/UGC

①オンライン活性化/オフライン活性化」の結果、メンバーの自主性が向上して企業に対してVOC(Voice Of Customer:顧客の声)を届けてくれるようになったり、コミュニティ内やオープンなSNS等でUGC(User Generated Content:ユーザーが生み出すコンテンツ)を発信するようになったりします。さらに「②共創プロジェクト」が進んでいくと発信するネタが増えて応援の気持ちも高まり発信意欲が向上するため、良質なVOC/UGCが増えることとなります。

こうしたVOC/UGCはその発信者であるコミュニティメンバーの熱量を他のメンバーに伝えていき「①オンライン活性化/オフライン活性化」に直接的に寄与します。また、熱量が外部に波及することで「④メンバー数増加」も期待できます。また、VOC/UGCは企業のマーケティングや商品開発にも活用され「⑤事業成果への貢献」につながりますし、社員の顧客理解が進み当事者意識が向上することで「⑥組織文化と意識の変容」の実現にもつながります。


④メンバー数増加

③良質なVOC/UGC」によって熱量が波及し、メンバー数増加につながります。それによってコミュニティにもともとあった熱量が増幅され「①オンライン活性化/オフライン活性化」につながっていきます。また、メンバーが増えるほどコミュニティでの施策のインパクトも増幅されるため「⑤事業成果への貢献」の度合いも高くなります。

ただし、メンバー数の量的な増加に伴いコミュニティの質を維持することも重要な課題となります。急激な成長は時として、コミュニティの核となる価値観や文化の希薄化をもたらす可能性があるからです。そのため、量的成長と質的成長のバランスを取る必要があります。


⑤事業成果への貢献

コミュニティにおける「②共創プロジェクト」や「③良質なVOC/UGC」はマーケティングや商品開発に活用され事業成果に貢献します。さらに「④メンバー数増加」によってそのインパクトは徐々に増幅されていくのです。

こうして顧客やコミュニティとのつながりが事業成果に貢献することとは、それらのリフレーミング(捉え直し)につながり、「⑥組織文化と意識の変容」を起こします。また、コミュニティが事業成果に貢献することで社内での注目度が向上し「⑦全社的な巻き込み」もやりやすくなっていくでしょう。

コミュニティの事業成果への貢献を正しく認識するには、従来のROI(Return on Investment)の概念を超えた捉え方が必要です。金銭的な利益だけでなく、以下のような多面的な成果が考慮されるべきでしょう。具体的には「顧客生涯価値(CLV)の向上」「ブランドの強化」「イノベーション能力の向上」「市場投入までの時間短縮」「カスタマーサポートコストの削減」「顧客獲得コストの低減」などがあります。


⑥組織文化と意識の変容

コミュニティにおける「②共創プロジェクト」や「③良質なVOC/UGC」は社員の顧客理解と当事者意識向上につながり、「⑤事業成果への貢献」がリフレーミングを促すことで組織文化と意識の変容が起きます。顧客やコミュニティとの共創を通じて社内全体にも共創文化が醸成されるようになることで「⑦全社的な巻き込み」もやりやすくなるでしょう。

組織文化と意識の変容は、企業の長期的な競争力に大きな影響を与える重要な要素です。コミュニティとの関わりを通じて起こる変容は、以下のような具体的な形で現れます。
顧客中心主義の強化:社員が直接顧客の声に触れることで、より深い顧客理解が進みます。
イノベーション文化の醸成:外部からの新しいアイデアに触れることで、社内のイノベーション意識が高まります。
アジャイル思考の浸透:コミュニティからの迅速なフィードバックに対応することで、組織全体のアジリティが向上します。
部門間の障壁の低下:コミュニティ運営が横断的な取り組みとなることで、部門間の協力が促進されます。
従業員エンゲージメントの向上:顧客との直接的な関わりが仕事の意義を高め、モチベーション向上につながります。


⑦全社的な巻き込み

⑤事業成果への貢献」によって社内での注目度が向上し、「⑥組織文化と意識の変容」によって共創文化が醸成されることで、コミュニティの取り組みに全社を巻き込んだ動きが取りやすくなります。こうして得られたリソースをコミュニティに再投入することで「①オンライン活性化/オフライン活性化」を勢いづけることができるのです。

全社的な巻き込みは、コミュニティ運営の持続可能性と効果を大きく高める重要な要素です。これは単なる「協力」を超えた、組織全体のパラダイムシフトを意味します。それは具体的には以下のような形で現れます。
経営層の関与:コミュニティ戦略が経営課題として認識され、トップレベルでの支援が得られる。
部門横断的なチーム編成:マーケティング、製品開発、カスタマーサポートなど、多様な部門からメンバーが参加する。
全社的な KPI への組み込み:コミュニティ関連の指標が全社の重要業績評価指標(KPI)に含まれる。
人事制度との連動:コミュニティへの貢献が評価や昇進の基準の一つとなる。
社内コミュニケーションの活性化:コミュニティの成果や学びが定期的に全社で共有される。


ループ図から読み取れること

このループ図を俯瞰すると、企業にとってのコミュニティの価値が明確に浮かび上がってきます。コミュニティは単なる顧客との接点ではなく、事業成果と組織文化の両面に影響を与える戦略的な要素なのです。そして、その戦略が正しく機能するにはコミュニティの熱量を持続的に高める活性化の施策が不可欠であることもわかります。

注目すべきは、このシステムが複数の正のフィードバックループを形成していることです。例えば、コミュニティの活性化が良質なVOC/UGCを生み、それがメンバー数の増加につながり、さらなる活性化を促すという循環が見て取れます。他にもいくつもループが見つかりますね。こうした自己強化的なループは一度軌道に乗れば事業成長や組織文化の大きな推進力となる可能性を秘めているのです。

余談ですが、このループ図が示す複雑な相互作用は、システム思考の重要性を改めて強調しているように思います。個々の要素を個別に最適化するのではなく、システム全体のダイナミクスを理解し、戦略的に介入することが重要でしょう。例えば、メンバー数の増加(④)だけを目標にするとコミュニティの質が低下し良質なVOC/UGC(③)の生成が阻害される可能性があります。また、共創プロジェクト(②)に過度に注力すると一部の熱心なメンバーだけが参加しコミュニティ全体の活性化(①)が進まないリスクもあります。だからこそ、コミュニティ運営者は常にこのループ図全体を意識し、各要素間のバランスを取りながらシステム全体の健全な成長を促す必要があるのです。短期的には効率が悪く見えるかもしれませんが、長期的にはより強靭で持続可能なコミュニティ、ひいては企業の競争力につながります。

こうしたコミュニティの効果を最大化するには、コミュニティを単なるマーケティングツールではなく、企業戦略の中核に位置づける視点も必要でしょう。コミュニティを通じて顧客との関係性を深め、共に価値を創造していく姿勢が今後の企業競争力の鍵を握るのかもしれませんね。

このループ図は、コミュニティを運営している方にとってはその価値を俯瞰する助けになるかもしれません。また、経営に携わる方にとっては戦略的にコミュニティを活用する発想のキッカケにもなるのではないでしょうか。



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