「369のメトシエラ」(2009年)
これはなかなか面白かった。
現実的な問題を扱いながら、ファンタジックな雰囲気を醸し出している。
ただ、本作を面白くしている要素が、逆に問題点にもなってしまっている。
主人公の武田俊介は区役所につとめる公務員。ゲイの青年に好かれている。
上司から頼まれて、施設を訪ねる。そこには親に捨てられた子どもがいた。その子どもの対応を依頼される。
ある日、隣室から老婆の歌声が聴こえてくる。武田はたえられなくなり、老婆の部屋にいく。歌うのをやめてくれと頼む武田に向かって、老婆は「あなたの妻になります」と答える。
孤独な人間ばかりだ。
武田自身、孤独の中に生きている。孤独でいれば自由でいられる、と孤独を肯定するような発言もするが、実際には肯定していない。彼は笑わず、他人と接するのを拒むだけだ。
そんな彼が、親に捨てられた子どもと、隣室の老婆を救わねばならない。
本作は、ジョーゼフ・キャンベルの「千の顔を持つ英雄」で論じられた英雄譚の構成に忠実な作りになっている。
武田は冒頭で、老人と子どもを助けるというミッションを与えられ、いやいやながら冒険の旅に出るのだ。
区役所の職員が探偵風の謎解きに挑むというアイデアはおもしろい。この構成が逆に問題になると感じたのは、公務員が、特定の人物だけに特別な配慮をすることになってしまうからだ。武田が所属している部署が区民課なので、問題ないのだろうか。
本作で描かれる人と人のつながりというものは、現代において見直されている要素だ。時代はめぐるものだな。
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