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神の戸口は保たれた【書評】

―隣市には、神様がいた

どうもこんばんは、志村和です。
今回はやってみたかった書評をしていこうかと思います。
文章表現についての感想みたいな内容なので、エセ書評ということで。
今回読んだ本は、吉田篤弘の『神様のいる街』です。

あらすじ

神戸と神保町をテーマにした、筆者の青年期の自伝的エッセイ。
これらの街での経験や思い出を通じて、自身の成長や人生の転機を描いている。
実在する文学や店舗が登場。筆者は最終的に、どこへ行きつくのか。

概要

ジャンルはエッセイ、あとがき含め125ページ。1時間と少しで読破。
目次には「トカゲ色の靴」「ホテル・トロール・メモ」「二匹の犬の街」の3編構成で書かれていますが、「ホテル・トロール・メモ」がメモ書きみたいな感じなので、SS2本と詩集1冊未満みたいなボリュームでした。

感想

吉田篤弘氏の本は初めて読んだのですが、かなり読みやすかったです。
エッセイって正解がないので、人によってはかなりクセのある文章を書くのですが、全くそんなことがなくて。違和感なく、スルスルと入ってくるので集中力が途切れない。中断することなく読破しました。
たとえば、

誰の手に渡って、どこで煙と化すのか、それを考えるだけで、どこからか物語の声が聞こえてくるようだった。

神様のいる街『トカゲの靴』より

という文章。
この文章は、神戸の三宮駅でオジバ(オジサンかオバサンか見かけで判断ができない人)が煙草を買う場面を見た筆者の心情を表す1シーン。
1文にしては多い読点が、まとまらない思考をそのまま吐き出したように感じられます。

「物語の声」という比喩を使っていますが、次の文章で街の様子を表していることが判明します。

この街には無数の物語があった。小さな箱におさまった物語が街の至るところに並び―それはつまり小さな街に小さな店がひしめている様そのものでもあったがー本棚に並ぶ書物のように、ページをめくれば、そこに尽きせぬ物語が隠されていた。

神様のいる街『トカゲの靴』より

こういう喩えって、読者の判断とかに委ねられてることが多い(と勝手に感じている)ので、丁寧な説明があると「おっ、この人の世界が見えてきたぞ!」となって読むのが楽しくなります。

ほかにも

普通なら信じないようなことを信じてしまうことを、僕は「偶然」と呼んだり、「運命」と呼んだりしてきたのだと思う。

神様のいる街『トカゲの靴』より

無人電車は、縦にではなく横にまわる電車なのだった。

神様のいる街『トカゲの靴』より

という1文も気に入っています。
比喩表現がそこそこあるのですが、前後の文で説明が入ったりするのでモヤモヤ感が残らない。
忘れたころに再び同じ比喩が用いられたりして、ミステリーみたいな伏線回収が起こるのもアツい。

時系列に沿って進行していくのでだんだん大人へと近づくのが感じられて、筆者の人生を追体験してる気持ちになれます。時系列がきちんとしてるのも、小説みたいで感情移入しやすかったです。

今回の引用はどれも「トカゲの靴」の文章ですが、「ホテル・トロール・メモ」「二匹の犬の街」もよかったです。個人的に「ホテル・トロール・メモ」が一番好きですね。
ホテルのメモパッドが始まりらしく、文章らしい文章はなく、かなり短め。
たった一枚のメモパッドに広がる吉田篤弘ワールドがお気に入りです。

筆者の印象

比喩の印象は、そこまで文学チックな感じじゃなくて、リアルな言い回しが多い印象。
濁したりせずストレートで、筆者の本音なんだなと感じました。
読点の多さ的に、宮沢賢治から科学成分抜いてエッセイ書かせたらこんな感じなりそう。
(宮沢賢治愛読者に怒られそうなので撤回しますが…)


まとめ

さて、今回は吉田篤弘の『神様のいる街』の書評記事でした。
批判とか一切せず(そこまでの度胸がない)、「この表現すき」という気持ちだけで書いたので、あまり中身に触れられていないような気もしますが、注意書きはしたので許してください。

『神様のいる街』は、『金曜日の本』というエッセイの続編(のようなもの)らしいので、今度はそちらも読んでみる予定です。
次の書評がいつになるかはわかりませんが、エッセイや詩の合間に、文章表現の勉強がてら投稿していけたらなと思います。
それでは、また次の夜に会いましょう。

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