河野裕子『ひるがほ』4

つづまりは一人は孤りと寂しめど今宵もわが辺に人は睡れる 結局人は孤独なのだ、と寂しさをかみしめているが、そんな自分の傍に今日も自分と生活を分かち合う人が眠っている。一人と一人。孤独な者同士であっても一緒にいられる。同時に、一緒にいてもやはり孤独なのだ。

逝かせし子と生まれ来る子と未生なる闇のいづくにすれちがひしか 産まずに死なせてしまった子と今自分の胎内にいる子は生まれる前の闇の中のどこかですれ違ったのだろうか。まだ抱きしめていない子ともう抱きしめることができない子。自分の体内の闇に思いを巡らす。

耳底にゆふべの水のひかるごと明日は死ぬべき蝉を聴きしか 蝉の声を、耳の底にある水が光るように聞いていただろうか、と自分に問いかける。夕方の水が光るように、聞く。共感覚というのだろうか。喩だとしてもとても特異で、しかも納得できる。産み月の作者と明日死ぬ蝉。

2020.10.7. / 19.Twitter より編集再掲