河野裕子『ひるがほ』6

ほやほやと風もあらぬに震ふ髪撫でつつをりていのち暖かし 生まれて間もない赤子の髪が揺れている。その髪を撫でていると小さな身体にいのちの暖かさが感じられる。「ほやほやと」は河野のオノマトペの中ではそれほど特徴的ではないのだが、赤ん坊の儚さ、可愛さが伝わる。

夜と昼のあはひ杳かに照らしつつひるがほの上(へ)に月はありたり 夜から昼への時間をはるかかなたから照らしながら、昼顔の上に月がある。内容的にはそれだけ。言葉で描いた絵画だ。夜(よ)、月。昼、ひるがほ。杳、上。組になった語を対比させる。「あり」が効いてる。

君は今小さき水たまりをまたぎしかわが磨く匙のふと暗みたり 家で匙を磨いている。銀の匙だろうか。その匙がふと暗くなった。その瞬間、君が小さい水たまりを跨いでいたのではないかと思った。君と心ではなく、動作で結びついたような感覚。匙の形状と水たまりの形状の相似。

2020.10.21.~22.Twitter より編集再掲