河野裕子『ひるがほ』15

腕いまだ灼けざる夏よひるがほは昼月のごとく透きつつ咲きて 夏という暑く濃い季節の中に、まだ日焼けしていない細く白い腕、薄く頼りない昼の月、それに似た薄い色の昼顔、と儚い印象のものが三つ並べられる。生命感が希薄な分、透明な美しさを感じる歌だ。

肩にさへ届かず見上げし君が顔海光の中に明るかりにし 背の高い君を見上げる作者。その君の顔が、海辺の光を浴びて明るかったと詠う。君の性格の明るさが表情に表れていたのだろう。性格の明るさの度合いにも差があるのだ。一緒にいるのに君に十全に届かない、という思い。全て過去形なところからも寂しさが伝わる。

夕暗む部屋にしづかにシヤツ脱ぎて若きキリンのやうな背をせり 主語は「君」。灯りをつけない部屋で服を脱いだ君を見て、若いキリンのようだと感じた。自分が感じたのだが、君がそんな背をしたと詠う。具体的にキリンというより、少し不器用な丈の高い動物のイメージ。

2020.12.5.Twitterより編集再掲