河野裕子『ひるがほ』14

天体は予感のやうに光りつつ汝よゆきずりの一人とはせぬ 天体だから太陽も月も星も入る。おそらく地球も。予感のように光る、という把握が巫女的。あなたをゆきずりの人にはしない、という強い気持ち。運命は自分で作る、という意志を感じる歌。

一夏(いちげ)更に一夏と過ぎて寂(しづ)かなるこころの深みに子は来て遊ぶ 一年の経過を夏で感じている。年月が過ぎるごとにしずかさを増す心。「寂」の字で表現されるしずかさ。「こころの深み」は抽象的だが、子を愛しながらも根源的な孤独に対する視線があるのだ。

乳のみ児の眠れるあたり陽が差して茫茫とせる枯野のごとし とても不思議なトーン。上句を読むと、ほのぼの明るい下句が予想されるが、描かれるのは「枯野」。それも「茫茫」とした枯野。乳飲み子を取り巻く周囲が荒涼としたものに見えている。作者の内面の反映か。

2020.12.4.Twitterより編集再掲