河野裕子『ひるがほ』12

花の首ちぎりて埋めし死者の身はあはれかすかに臭ひてありし 棺に入った死者の身の周りを花で飾る。花であっても「首ちぎりて」が生々しい。「埋める」も直接的だ。死者の身体がにおうことを「臭」という字で表し、死を美化しない。通夜を経て死者が臭う。死は現実。

死者のみが触れゐる棺の暗闇に釘かんかんと打ちおろすなり 棺の蓋に釘を打つ。出棺の際に遺族が行う儀式だ。初句・二句でなぜか自分が棺の中に閉じ込められてゆくような閉塞感を覚える。下句のかんかん、というあっさりしたオノマトペに、逆に開放感があり、少し救われる。

逝きしひとの匂ひかすかに残りゐる古き鏡台に陽があたりをり 葬儀を終えた日常生活。「古き鏡台」で亡くなった人が年配の女性であったことが分かる。白粉などの、少し前に流行った香りがかすかに残るのだろう。こちらは「匂ひ」。亡き人の思い出の中のやさしい香り。

2020.12.2.Twitterより編集再掲