河野裕子『ひるがほ』16

鼻梁の翳さびしく汝れは眠りゐる妻子無き日のある夜に似て 眠る「汝れ」の顔に高い鼻梁が翳を落としている。その翳を寂しく感じる。今は妻(自分)と子と暮らしているが、妻子を持つ前の、一人で眠っていた時と同じ寂しさがあるのだ。夫婦で同じ空間にいても孤独は消えない。

等分に子に血を分けし者なれど時にはにかみ子に向ひゐる 子供には自分と夫の血が半分ずつ、等分に入っている。条件は同じだが体感的に母になった自分と違って、夫は子供に対するとき、はにかみながら向かう。初々しい父親だが、子が他者であることを直感しているとも言える。

2021.1.11.Twitterより編集再掲