河野裕子『ひるがほ』22

人尋(と)むるかなしきこころ黄の花の耀ひの奥に鬼は息づき 人を尋ねる心は、相手が応えてくれなければ空しく悲しい。夕日に輝く菜の花畑の奥で鬼は人知れず息づく。「息衝く」は息をする、生きている。ため息をつく、嘆く。苦しい息をする、喘ぐ。どの意味を重ねて読むか。

菜の花に首まで隠れて鬼はひとり 菜の花に跼みて待ちゐてひとり 鬼は菜の花から首だけ出して少女を探している。少女は菜の花の中にかがんで鬼を待っている。どちらもお互いを探しながら、どうしようもなく一人なのだ。求めながら、すれ違い、出会えない。目の前にいるのに。

鬼なることのひとり鬼待つことのひとりしんしんと菜の花畑なのはなのはな 十・十・五・七・七、迫力の破調。何かの鬼になってしまった孤独、さらにその鬼を待つ孤独。静かな菜の花畑に孤独がしんしんと響く。四句五句は意味よりも音と文字の美しさを優先。五句の持つ恍惚感。

2021.2.10.Twitterより編集再掲