河野裕子『ひるがほ』20

こゑ持たぬ鯉ら陽あたる水際辺にほのかに白き口ならべ寄る 河野は同じ素材を繰り返し詠った。「鯉」も「こゑ」も、その一つだ。鯉たちを「こゑ持たぬ」と規定した途端、水際に寄って来る鯉が、物言いたげに見える。「白き口」も具体を表していて、しかも、「こゑ」と繋がる。

あますなくうぶ毛につつまれほやほやと陽だまりのやうに乳のみ児眠る 身体中あますところなく産毛に包まれた乳飲み子。その産毛が風も無いのにほやほやと動いているようだ。河野らしい、個性的かつ納得できるオノマトペ。子の眠る様子が陽だまりのよう、という把握もいい。

いつまでも砂盛りあげて遊ぶ子に無限のものならむこのゆふべの刻(とき)遊びに熱中している子供は時間の経過を気にしない。きっと子供にとって時間は無限なのだ。測ることさえできない。下句の九八という破調を、上句の定型が許容する。時間が無限だという内容が字余りに合う。

2021.1.15.Twitterより編集再掲