河野裕子『ひるがほ」13

胎児つつむ嚢(ふくろ)となりきり眠るとき雨夜のめぐり海のごとしも 妊娠した時、自分の中に胎児が存在する、と感じる人が多いだろう。しかし河野は、胎児を主体に据え、母である自分の身体をその回りの袋と捉える。そしてさらにその回りを夜の雨が包むのだ。海のように。

死の後も瞑ることなき魚の眼が夜の厨に青く濡れゐつ 魚は生きていても死んでいても目を開いたまま。台所に魚を置いてこれから料理という場面だろう。魚を食材ではなく自分と同じ生き物と捉えている。目が濡れている。死んでから時間が経っていないのだ。青は死の象徴か。

2020.12.3.Twitterより編集再掲