河野裕子『ひるがほ』18

日向より戻りし吾子が胸に来て匂ひふさふさと眠りてゆけり 日向で遊んでいたわが子が戻って来た。そして作者の胸に抱かれて眠ってしまった。この歌の特徴は、匂いに「ふさふさと」というオノマトペをあてたことだろう。お日様の匂いの幼な子。それを胸に抱いている作者。

雨の匂ひしてゐる夜を鳥よりも深く首曲げ眠れり孤り 雨が降っているのかもう止んだのか。いずれにしても雨の匂いが空気中に漂っている。鳥は首をすくめたようにして眠るが、自分をそんな鳥のようなイメージでとらえている。結句の「り」の繰り返しが孤独感を増幅する。

病める子がしばし遊びてをりし卓象牙の子馬は宙を蹴りつつ 病気で外へ遊びに行けない子が、テーブルの置物の子馬で遊んでいたのだろう。今、子はどこかへ行ってしまい、子馬はひっくり返ったまま置きっ放しだ。白い象牙の子馬は宙を蹴っている。結句の言いさしに余韻がある。

2021.1.13.Twitterより編集再掲