河野裕子『ひるがほ』24

土鳩はどどつぽどどつぽ茨咲く野はねむたくてどどつぽどどつぽ 初句四音。河野の特徴の一つである個性的なオノマトペの良さが充分に出た歌。オノマトペの歌のごく初期に位置付けられる。土鳩の「ど」と鳴き声の「どど」が響き合う。「野はねむたくて」の「は」も短歌的助詞。

みづからの暗き臓腑に届くなく肩灼けたるのみに夏も終われり 日に焼けるという時に「灼」という漢字を使うのも河野独特だ。日射しは、夏の間むき出しにしていた肩の肌を灼いた。しかしそこまでで、全てを曝く日射しは、自分の臓腑には届かなかった。暗い思いを秘めた臓腑に。

君は君の体温のうちに睡りゐてかかる寂しさのぬくみに触(さや)る 人は自分の肌の内から出て他者と接することはできない。眠る時も、自分の
肌の内、体温の内に籠るしかない。それは寂しいことではあるけれど、他者の肌のぬくみには触れられる。「寂しさのぬくみ」がいい。

2021.2.12.Twitterより編集再掲