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河野裕子『ひるがほ』25

夏樫のやうなる吾や子の肩に双掌を置きて揺すりてやれば 歌の中で自分を何かに喩えるのはよくあるが結構難しい。自己愛が強すぎたり逆に自虐になったり。「夏樫」は爽やかで読者もすんなり受け入れられる。子の肩に置いた両手で子を揺する。自分も揺れる。若々しい樫の枝のように。

抱きあげし子のいのちいまだ小さくて風夜の闇に火のごと囲ふ 子供を抱き上げてみると、普段思っているより心も体もずっと小さいことを実感する。花火をする時のろうそくの火を、手で囲んで風で消えないようにするイメージ。子供の命の火を自分の身体で包み込むようにして守る。

君と子らを得たる腕(かひな)よさはさはと朝の夏草かき抱きて刈る 伴侶と子らを得ていつでも抱きしめることのできる腕。その腕で庭の草を刈る。草をも「さはさはと」かき寄せ抱くようにして。草を刈った青く新鮮な匂いが鼻腔をくすぐる。オノマトペを生かした爽やかな歌。結句「かきだきてかる」も、意味のある語句なのだが、オノマトペのように感じられる。

 第二歌集『ひるがほ』読了。結構時間がかかってしまった。いい歌が多いし、大好きな「菜の花」の一連を丁寧に読みたかったから。いよいよ次は『桜森』。楽しい。

 いい歌を読んで評を書くことは自分自身の癒しに繋がるのだなあ。

2021.2.13.Twitterより編集再掲