第2種/第3種電気主任技術者を認定で取得したときの話 ③実務経歴書を書くときの心構え

電気主任技術者免状(以下、免状)を認定取得するために実務経歴を積めたら、つぎのハードルは実務経歴書の作成です。
今回はそんな実務経歴書の書き方のはなし。めちゃめちゃ長いです。5,425文字。
なお、私および後輩が審査を受けたさいの注意点からの記載なので、地域差などがあるかもしれません。
しかし、オーバーかもしれませんがここまでやっておけば、撃沈することはないと思います。面談の予習だとおもって準備しましょう。

つまんで書くと

  1. 産業保安監督部の実務経歴書記載例は設計図程度におもうこと。

  2. 実務経歴書は業務引継ぎマニュアルのつもりで書くこと。

  3. 申請者の立場に合わせた文言に配慮すること。無資格者にその作業はできるのか? 有資格者が業務を放ってないか?

  4. 試験4科目を意識。とくに法規。

  5. 保安規程はよく読んでおくこと

実務経歴書とは

電気主任技術者免状を認定取得するには実務経歴書を書く必要があります。
認定のための審査官との面談は、この実務経歴書をベースにします。
記載例は各地の産業保安監督部電力係のサイトに上がっています。

記載例は使いものになるか?

認定取得を希望する方むけの説明会に出席した時、説明を担当された審査官(第2種電気主任技術者の認定担当とのこと)から
「記載例をそのまま転記してもってくる人がいるが、本人の業務実態に合っておらず、実務として認められないものが多い」
「実際に実務を経験しているとは思えないくらい、内容がスカスカである。面談にて内容を聞くと、なお穴が見える」
との話しがありました。
記載例は実務経歴書の設計図くらいに思ったほうがいいでしょう。

実務経歴書を書くためのポイント

さて、記載例は設計図程度にしかならないということであれば、具体的にはどのように実務経歴書を書くべきでしょうか。
審査官は、「もし御自身に部下や後輩がいたとして、その人に業務を指導するときに作る手順書くらい細かく記載してほしい」と度々忠告していました。
また、実際に私や後輩が作成した実務経歴書においても、指摘される点は業務の種類というより「業務のやり方」でした。
おそらく、知識や能力にもとづいて申請者自身が保安上の判断をしているなら手順を後輩や部下に指導できる位に業務を理解していると見られているのでしょう。
このことから、実務経歴書を書くときには、

  1. 具体的な作業項目と、良・不良の判断基準を明確に記載する。

  2. 立場に合った文言を意識する。

  3. 試験4科目をイメージする。

ことを推奨します。

1.具体的な作業項目と、良・不良の判断基準を明確に記載する。

たとえば、電気主任技術者(見習い)なら日常の受電状況の監視をしているはずです。記載例だと

運転、操作業務
①どのような頻度で(例:毎日○時に…)
②どのような目的で(例:力率調整を行うため……)
③何を(例:遮断器、コンデンサを……)
④どのような方法(例:遠制、直接)で操
作したか
(2) 監視業務
①どのような頻度で
②どこで(例:監視室、変電所…………)
③どのような方法で(例:電圧計、電流計
等の計器により……)
④何を監視し(例:受電電圧、電力量、電
流、力率を確認し…)
⑤その結果をどのように処理したか
(例:受電日誌等に記入し課長に報告…)

https://www.safety-kanto.meti.go.jp/denki/shikaku/data/denkenword0404.pdf
14ページより

とあります。まんまこれで、
①毎日3回
②変電所で
③監視装置の画面により
④力率を確認し、
⑤結果を帳票に記録し、受電日誌として課長に提出した。
と書いても、知識や能力にもとづいて申請者自身が保安上の判断をしているようには見えません。もし、これが引継ぎマニュアルだったとしても、さっぱりでしょう。

これを、

監視業務
監視業務は受電設備の正常な運転を確認し、エネルギ ーの節約や異常への 早期対応 、事故の未然防止を図ることを目的として実施した。
申請者は勤務時間中、勤務室に設置の電力監視装置(パソコン)により遠隔にて計測および監視を行 った。
i) 計測
計測は一日2度(概ね9時と15時)実施してきた。計測対象は受電電圧、電流、電力、電力量、力率の変化で ある。上記計測では各計測対象の60分毎の計器指示値が受電記録として記録されていることも目視で確認した。
また、計測の時には、生産部門より提示されている生産計画と上記の受電記録を比較し、稼動機器の構成から電流・電力・電力量が適正かを検討した。具体的には、通常の生産稼動中であれば受電側回線の電流値の最大値が概ね○~○Aの範囲内、非受電側回線の電流値が0A、一日の最大使用電力が概ね○,○00~○,○00kWの範囲内, 一日の有効電力量が概ね○○,000~○○,000kWhの範囲内に収まること、力率は概ね100%であること、主変圧器二次側電圧が6,600Vであることをもって適正と判断 した。
上記の基準に収まらない場合は気温変動などの季節・環境要因や機器の故障が影響していないかを検討した。
季節要因および生産予定の変更を除き 、上記の基準に概ね収まった。

申請者の実務経歴書より引用(ただし、一部伏せ字および強調)

と書くとどうでしょうか。部下・後輩も
「目的は受電設備の正常な運転と、省エネなんだ」
「9時と15時に勤務室の電力監視装置を見たらいいんだな」
「生産部門の計画から稼動機器を想定して、大体受電電流が○○Aに収まれば正常なんだ。そうじゃない時は季節変動と機器の故障を見るのか」
と判断できますよね。
このレベルの記載が最初から最後まで貫けたら、面談はかなり楽に通ります。実際、私は内容の補足は精々2回で、あとは誤字脱字の訂正程度でした。
後輩にはこの位の詳細な記載を徹底させた結果、1回面談→技術的な質問事項をメールで2回やりとりして第3種電気主任技術者の認定を受けています。

2.立場に合った文言を意識する。

申請者には色々な立場があるはずです。一部門の平課員ということもあれば、課長・部長ということもあるでしょう。
電気主任技術者の免状を持っていて上位の免状を希望しているということもあれば、0からのスタートということも、免状はあるけど選任は受けていないということもあるでしょう。
実務経歴書は自分がどのように業務を行なったか、を記載するものですから立場に応じた記載が必要です。
たとえば、申請者が工場の電気主任技術者として選任されているのに「工場長の指示により、停電させた」みたいに書くと、主任技術者の職務を果していないことになります。
申請者が選任を受けた主任技術者なら、電気の保安に関する監督は申請者自信の判断で実行していること。
実際の作業を補助者にさせたなら「○○と判断した上で、補助者に操作させ結果の報告を受領した。受電回線の電流値が0Aとなったとの報告をもって正常と判断した」のように、終いまで面倒を見ていることを明記しましょう。

一方、申請者が補助者の場合でも、自分なりの判断をしていることは明記しましょう。
補助者の立場で主任技術者を差し置いて「停電するべきと判断し、操作した」と書くのも「何の権限でやってんの?」という話しになります。しかし、全くなにも判断していない単なる作業代行だと保安上の判断ができないと見られます。
たとえば、

選任された電気主任技術者より、真空遮断機の開放を指示された場合は、負荷電流が0Aであることをフィーダー盤の電流計を目視、また副変電設備の断路器が開放されていることを目視または業者の報告を聴取することで確認し、開放操作可能と判断したことを主任技術者に報告、操作の許可を得て開放ボタンを押下した。
開放表示が「投入」から「開放」になったこと、副変電設備の変圧器一次側電圧が3相とも0Vとなったことを変圧器盤の電圧計で目視もしくは業者の報告を聴取することで確認した。その後、真空遮断機を断路位置まで引き出し、挿入ロックがかかったことを目視および接触にて確認した後、開放操作完了を電気主任技術者に報告した

くらいに書きましょう。

3.試験4科目をイメージする。

電気主任技術者の国家試験は4科目あります。国家試験で合格しようと、認定で免状を得ようと同じ電気主任技術者の職責を担います。
ということは、実務経歴上も4科目に相当する実務を担えるだけの力量があると示さねばなりません。
「いやー、私認定でもらったので、法規は知らないです」とはいかないということです。

この点、とくに穴になりやすいのは法規に相当する部分だと考えます。
何を書けばいいのか判らないから書きにくい。
試験でも落としやすい分野ですが、認定における法規相当の部分は比較的対策が容易です。

  1. 保安規程めちゃめちゃ大事

  2. 電気事業法以外の法律や、教育も大事

  3. 社内外とのコミュニケーションも広い意味での法規

の3点を意識しましょう。

保安規程はめちゃめちゃ大事。

保安規程、読んだことがありますか? 実務経歴が積めるような需要家は、設備の設置工事前や遅くとも使用開始までに保安規程を提出しているはずです。
電気事業法や電気設備技術基準といった各種の法規のなかから、とくにその需要家での基本ルールとして解釈・具体化されているのが、保安規程です。つまり、全ての実務経歴はまずは保安規程上に根拠があるはずです。
巡視業務、月次・年次点検の点検項目、社内での保安教育……保安規程を読んでいない人は法規のスタートラインにも立っていません。
電気主任技術者になったなら、どこの需要家に転職したとしても保安規程を作成・変更できなければなりません。
設備の追加・変更で単線結線図が変更になった、社内の体制がかわって電気の保安を担当する部署が変更になった、など電気主任技術者として長く勤務していれば保安規程の作成・変更は付き物です。
保安規程を作成・変更する立場になるのに、今の保安規程も読んだこともないのは「作文をすることになるのに、教科書も読んだことがない」レベルです。

電気事業法以外の法律や、教育も大事

電気主任技術者は電気の保安に関する監督を担うのですから、電気事業法が大事なのは当然です。
しかし、電気の保安の監督は電気事業法だけを見ていればいいわけではないのです。

例えば、廃棄期限が近づいているPCB汚染機器。変圧器やコンデンサの絶縁油にPCBが混入していたら、電気事業法上の届出が必要です。しかし、それだけですか?
PCB 特別措置法上の届出だって必要ですよね? 電気保安の監督を担っている電気主任技術者以上に、PCB汚染された電気工作物の内容を把握している人はいないはずです。
変電設備を設置したら、電気事業法の届出をしますよね。しかし、その規模に満たない変圧器なら、どこにも報告しなくていいんですか?
規模によっては市区町村の火災予防条例上、変電設備設置届を必要とされているはずです。
事業者は電気の保安に関する業務を行う人に高圧電気取扱講習を受けさせる労働安全衛生法上の義務がありますよね。
このように、電気事業法以外の関連法令についても目を配っておくのが、「事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督の職務を誠実に行わなければならない」(電気事業法第43条4項)の趣旨に一致するのではないでしょうか。

また、保安規程(の例文)上でも、

第3章 保安教育(保安教育)
第11条
電気主任技術者は電気工作物の工事、維持又は運用に従事するものに対し、電気工作物の保安に関し必要な知識及び技能の教育を計画的に行わなければならない。

https://www.safety-tohoku.meti.go.jp/denki/denkihoan/taiyodenchi/03_hoankitei.pdf
5ページより

とあります。教育もしっかり行いましょう。

社内外とのコミュニケーションも広い意味での法規

各種点検の日時の調整、不具合箇所の修繕スケジュールの調整、電気工事業者への入構教育、契約電力の見直しや省エネ対策、電力会社との停電操作の打ち合わせ……
電気主任技術者は社内外と密にコミュニケーションを取ります。
これらも広くみれば法規の分野に含められます。保安規程に基づく点検の日時調整、電気設備技術基準に合わせた修繕の指示、構内での事故防止のための教育。設備の負荷率を見据えた省エネ対策、と業務全般の根拠は法規に含まれます。

[実務経験の範囲]
実務経験として認められる職種は次のとおりです。
(1)500V(*)以上の電気工作物(一般用電気工作物を除く)である発電設備(除:ダム、水路設備)、変電設備、送電設備、配電設備、給電・遠隔制御等の設備(除:電力保安通信設備)、需要設備に関する次の①②③の業務及びこれらの業務を監督指導する業務。
(*第2種については10kV以上、第1種については50kV以上)
(中略)
(2)上記(1)に直接関係し、現場に常駐または定期的に出向く必要がある次の業務又は保安管理的業務(工事計画の認可申請書等の作成、電気事故防止対策業務等)

https://www.safety-kanto.meti.go.jp/denki/shikaku/data/denkenword0404.pdf
11ページより

とある内の(2)は全て法規なのだと意識しておくと良いでしょう。

次回は実際の面談の内容です。

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