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宙、舞いました。③

怪我をして救急で診てもらった翌日、書いてもらった紹介状を持って総合病院の形成外科に行った。家からも比較的近く、怪我をした場所からは徒歩5分の場所にある病院だ。
朝一の受付を済ませ、CT画像を提出し、診察室に呼ばれるまで1時間かかりすでに疲れ果てていたが、その間に予約していたトレーニングやマッサージのキャンセル等に追われていた。来週くらいからはまた日常に戻れると思い、2週間後の予約にずらすくらいの軽い気持ちだった。

なるべく頑張るけど

診察室に呼ばれて第一声。
(昨日受診した病院で撮影したCTを見ながら)
『いつから入院しようか?』
、、、、、?!?!?!?!
はい??入院??
頭が真っ白になった。
『綺麗に折れてるからねー、元通りにはならないと思ってね、なるべく頑張るけど』
思わず泣きそうになる。
大変なことになってしまった、と。
ただでさえ鼻が大きく、コンプレックスの塊なのにさらに、、とは。。
この時鼻は全体的に大きく腫れ上がり頬は紫色、目の下は内出血で腫れて赤くなっていたのでここからどこまで戻るのか分からず不安だった。

呆然としている私にお構いなしに、先生は手術の方法、どれくらい痛いか、術後の流れなどを説明し、言われるがまま心電図、CT(コロナ対策のため)、血液検査、尿検査など一通り検査を受けて翌々日からの入院の手続きを済ませた。

キーパーソン

入院前の手続きをしていく中で、大部屋にするか個室にするか、食事をどうするかなどを細かく決めていく説明があった。
今回4人部屋と個室の差額は1泊8千円。
神経質で人がいると落ち着かない性格のため個室を選択。
食事は前歯と左の奥歯が使えないためなるべく小さくカットしてもらうとか、オレンジは缶詰で、肉は避けるなど栄養士の方も交え細かく決めていただいた。
主食はパンを避けお粥を希望。
お粥、大好物。お粥とザーサイの組み合わせ、大好物。
噛むことが難しくてもなんとか食べられそうで一安心した。
続いて入院前や入院中、手術のために連絡をとれるキーパーソンを設定してくださいと言われた。
困った。非常に困ってしまってペンが止まる。
普通なら両親や兄弟、結婚していたら家族を書く欄に誰も書ける人がいない。
親は?兄弟は?看護師さんに聞かれても言葉に詰まる。『いません、、連絡先わかりません、、』唯一つながりのある親代わりのおばちゃんの連絡先を書くと同時に事の顛末を連絡する。大病をして通院生活を送るおばちゃんに心配かけたくないな、と思いつつ他にあてがなくお願いすることにした。
他にはいない?と聞かれ、条件がすぐに動ける人という事で会社の人にお願いした。
この時に、ものすごく孤独を感じると同時に焦りを感じた。
病気になって入院することになったり、事故にあって緊急の手術を受けることになっても遠慮無しに頼れる人、すぐに連絡する人がいない。
核家族どころではない。『個』だ。
これからは自分のために使う時間や今後の人生の方向性をしっかり考えようと思った。
こういうのが人生の転機の一つになるのだろうな。

帰りながらすぐに入院に備え、締め切り近い仕事や連絡などを処理し始めた。入院の準備も荷物の半分が事務仕事道具。
こんな時まで自分のことは後回しにするのか、、と自己嫌悪に陥るので楽しみも作ろうと、紅茶やコーヒー、ソフトサラダ(柔らかいおせんべい)、チョコレート、T-falの湯沸かしポットと遠足気分で準備をし直した。
自分のご機嫌は自分で取らないと。

この時点で鼻の痛みはあまりなく、腫れさえひけば順調と考えていた。それよりも顔をぶつけた反動で首から背中、腰がムチウチ状態となっていた事がだんだん辛くなってきていた。
入院して安静にする時間が増えると身体が固まると思い整骨院で少しほぐしてもらい鍼を打った。全然走らないランナーだけど、故障の宝庫のため自分の身体の状態に敏感なのは役に立っている。

午後からは元々予約していた歯医者へ。ナイスタイミング。ある程度事情は電話で伝えておいたが先生は私を見た瞬間『あちゃー、、、どうしたの』と言って絶句した。
歯が割れて歯茎が痛くて、と一通り説明して口を開ける。先生まだ何も言わない。
歯を動かしたり入念にみてもらってからCTを撮り、その画像を見ながら『様子見ましょう』と一言。
ぶつけた衝撃で今はどのくらい損傷があるかわからないから痛みがひくまでは様子を見ていく事になった。
不安だけどまだ望みはあると言われひとまず安心。
割れた歯も薬剤で修復、コーティングすると薬剤と歯の区別がつかないほどになった。
それだけでずいぶん気持ちが楽になり、痛みのある歯もなんとかなる気がしてきた。

限度額適用認定証

入院前日、仕事もひと段落した後、高額医療費の申請をしに役所へ。この申請をして限度額適用認定証の書類をもらうと病院の窓口で支払う医療費が限度額以上はいかないように処理をして清算できるシステム。あらかじめ高額になるとわかっている場合には申請しておくといい。
移動もたくさんして夕方にさしかかっていたがあとは入院、手術の同意書に署名をもらうだけ。
練習会に行くスタッフに署名をお願いしていたので原宿へと向かう。
が、連絡がつかない。。
数時間後やっと連絡がついた時には練習会始まる20分前。仕方なくそのまま待っていたが練習会が終わる頃になっても連絡が来ない。
すでに4時間以上待ちぼうけのため疲れ果ててしまい、帰ることに。
その夜、日付が変わっても連絡がとれず入院できないなと半ばあきらめ、『個』を痛感した。 頼れるのは自分しかない。これからの人生自分でなんとかしていくしかない。
怪我をしてから診察、検査、準備と慌ただしく気持ちも不安で、手術と聞いてさらに不安で、これからのこともお先真っ暗な時にまさかの同意書に署名もらえない事態が重なり不安と疲労が頂点に達していた。
もういいや、手術しなくても鼻折れてても曲がっててもいいや。と自暴自棄になった。  
眠れないまま朝になり、呆然としていた時にやっと連絡が来た。
不安や諦めで無の状態になっていた私は言いたい言葉を飲み込み、署名をしてもらいそのまま病院へと向かった。

やっと寝れる、、それだけが拠り所だった。

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