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唯一の自慢を失った日

私には自慢できる事が一つだけある。
小さい頃からのとっておきの自慢。

『8020運動』とはご存知ですか?

1989年(平成元年)より厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動で、20本以上の 歯があれば、食生活にほぼ満足することができると言われている。

私が歯医者で歯科助手をしたのはもう16年くらい前の話。その時の同期は3人。他の2人は明らかに顔採用だと思うほどの美人だった事を覚えている。
新規オープンのクリニックで、院長とたまに来る院長の弟の先生、受付には院長の妹と、兄弟で成り立っていた。
院長の妹はとても気さくで休憩時間や帰宅時送ってもらった時にはよく話を聞いていた。(ベンツを免許取得した高校生の時に贈られたらしい)
実家が代々開業医で歯科をしている話、歯科は出血が止まらず亡くなる方もいる話、大学病院を選ぶ人と開業を選ぶ人の違い、合コンにおける医師の特性などなど今でも私の会話の引き出しにしまっている面白い話ばかり。
そのひとつに『8020運動』がある。

私は歯並びが悪くもともとの歯が真っ白ではなく黄味がかっていてとてもコンプレックスに感じていた。そんな時、妹さんが私の歯を見ておどろいたのだ。
『ちゆきちゃんもしかして歯医者行くことない?虫歯無いんじゃない?!』
まさにその通り、虫歯もないから銀歯もない。
歯医者で働こうと思ったのも行った事がないから興味があったのだ。 
その時言われたのが『8020運動』の話。
その歯を大切にした方がいいと強く言われた事を覚えている。そしてその日からこのコンプレックスだった歯が私の自慢になった。
唯一の自慢に。

アゴが痛くて眠れない

2016年マカオマラソンに参加した際に弱いところから菌が入ったらしく下の奥から2番目の歯が腫れて痛くて10年以上振りに歯医者に行った。
そこで軽度の虫歯治療をして終わったがその後も左側で噛むことができない位痛かった。
何年も違和感を抱えたまま過ごしてきたが、今年の3月寝ていると顎が痛くて痛くて全く眠れない食べることもできない位痛みが増した。慌てて歯医者に行くと虫歯でも親知らずでもなく、食いしばりが原因じゃないかと言われた。極度のストレス。
虫歯はどこにもないのだ。
コロナ禍でそこの歯医者にいけなくなったため他の歯医者に行くことにした。CTを取り診てもらったが悪いところはない。
最後に先生に『上の奥から2番目の歯に爪が突き刺さるんです』と言い診てもらうと、なんと…

歯が割れている
 

欠けているか割れているか取らないとわからないから少し取ってみましょう!とあっさり言われ少し欠けてる位の気持ちで、いや、そう祈って身を委ねた。麻酔をして力ずくで引っ張る。全然取れない。さらに麻酔をして今度は歯を割り引っ張る。
小さいほうのかけらは何とか取れたが、残りの歯が全然取れない。この時点で、根元まで割れていることが確実となった。
ぐりぐりと引っ張ったり捻ったり力ずくで抜こうとするが、全然抜けない。
先生は観念したようで歯をもう一度割り今度は勢いよくスポーンと抜いた。

虫歯のない歯

抜いた歯を見て驚いた。とても丈夫。虫歯もない。見るからに強そう。
でももうこの歯は戻らない。
虫歯も悪いところもないのに抜くことになった歯を見てとても悲しくなった。私の唯一の自慢を失い欠陥品の判を押された気持ちになった。
その歯は見事に真っ二つに割れていて、亀裂が入っているとかそういう問題ではなくきれいに真っ二つに割れていた。
歯がなくなったと言う事実、褒められた唯一のものがなくなったと言う事実、あまりの衝撃でSNSをしばらくやめたほどショックだった。

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歯は戻らない

わかりきった事だけど、抜けた歯はもう戻らない。これからは今まで以上に大切に扱っていこうと心に決めた、そんな矢先まさかあんなことが起こるとは、、、

私の身の回りに起きた個人的な大きな出来事はまだ終わりを迎えていなかった。





 

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