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うさぎからかめ

……うさぎさんとかめさんが山の頂上まで競争をすることになりました。もちろん、うさぎさんの足が圧倒的に速いため、かめさんとの距離はどんどん広がっていきます。そしてかめさんの歩みののろさに油断をしたうさぎさんはレースの途中で昼寝をしてしまいました。その間にゆっくりと距離を縮めたかめさんはうさぎさんより先に山の頂上へたどり着きました……。

色々な教訓が含まれている、この昔話を知らない人はいないだろう。

私は、うさぎだった。
しかもただのうさぎではない。
油断をしないうさぎだった。

周りに置いていかれるのが何よりも嫌で、相手がかめであれ容赦はしない。与えられた環境の中で自分にできる最大限のことを行ってきた。よく「生き急いでいるね」と言われた。
中、高、大学生のときは勉強、部活動、アルバイトに限りなく時間を捧げていた。手を抜くことはなかったし、ソファーに寝そべってテレビを見ていたら数時間が過ぎていた、なんてことはなかった。スケジュールを刻んで立て、完璧にこなすことを目標にして過ごしていた。

だけど今は違う。
今は木陰で休んでいるうさぎだ。

周りと足並みを揃えたところで置いていかれないという保証はない。経験を重ねるうちにどんなに頑張っても叶えられない願いがあり、抗えない未来があることを知った。生き急いでも結果は変わらない。そして少し肩の力を抜いた。ベッドの上に寝そべって何もしない休日は贅沢な時間だと感じられるようになった。しんどいときは自分を甘やかしてお金を使うようになった。

まさか自分がそんな考えを持つようになるなんて数年前は考えられなかった。だけど川の流れがゆっくりと、角張った石を削っていくように、時の流れが私の考えを丸くした。まだ、ゆっくりと時間が流れる日々に慣れきってはいないけれど、体と心が少しずつ適応に向かって進んでいるように感じている。

長い耳と自慢のバネが、時間をかけて硬い甲羅と芯になる。そしてあたかも自分は最初からかめでしたよ、という顔をして目の前に伸びるレーンへと足を踏み出すのだ。そのときが来るまでが人生の夏休み。もちろん、この先、そんな休みが何度あったっていいだろう。

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百瀬七海さんのサークル、「25時のおもちゃ箱」に参加しています。
あと数日で終わってしまう8月。こちらのエッセイは8月のテーマ、「人生の夏休み」に沿って書きました。


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