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悪夢捕り

 新宿の雑踏の中に確かに富子の姿を見て俺は後を追った。

 富子…。五年前に21歳の若さでこの世を去った幼馴染だ。

 富子らしい人影は狭い路地へと入って行った。おれは駆け足で後を追う。路地に入った突き当たりで、こちらに背を向けて女が立っていた。

 「富子?富子なのか?」

 女は振り返った。富子だった。その姿は五年前とほとんど変わっていない。

 「富子、お前生きていたのか?」

 五年前、俺は確かに富子の骨を拾った。その軽くてカサカサした質感を今でもはっきり思い出すことができる。

 富子はこちらを見たまま黙っている。

 「辻村大介さんですね。」
 急に背後から男の声がして振り返ると、山高帽をかぶった異様に背の高い老人が立っていた。

 「その者は富子であって富子ではありません。あなたを誘き寄せるために連れてきました。」

 その言葉の意味が理解できずに、俺は再び富子を見た。
 すると富子は虚な目をして、あーんと口を開けた。そこには人の歯はなく、太く黒い毛のようなものが密集していた。それが四方八方にワサワサと蠢いて、俺の方へと…


 自分の叫び声で目を覚ました。最悪な夢だ。汗でびっしょりだ。
 俺はいつものように出社すると、同僚であり幼馴染の雄太に夢の話をした。

 「富子?富子って誰だよ?」
 雄太の意外な反応に俺は戸惑った。俺と富子と雄太は兄弟のように育った仲なのだ。
 「何言ってるんだよ。富子だよ?ふざけてるのか?」
 「それはこっちの台詞だよ。それにその首のイボ何だよ。変な薬でもやってるんじゃないだろうな?」

 雄太の言葉に俺は首に触ってみた。そこには確かに何か出来ているようだった。触っていると、イボの中から何やらウネウネ動くものが出てきた。
 そいつを摘んで見ると、気色悪い色をした幼虫だった。


 自分の叫び声で目を覚ました。最悪だ。
 布団に目を落とすと、夢に見た幼虫が数匹ウネウネ動いていた。
 慌てて首を触ったがそこには何もなかった。

【続く】

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