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Book Review #3|サトコとナダ

読書録3本目。今回は、漫画。

漫画をほぼ読まずに育ってきたわたし。
(読んだのは「ダーリンは外国人」シリーズと、姉の影響で読んだ「鋼の錬金術師」シリーズくらい)

そんなわたしが1日で一気に読み切った、こころがほっこりする大好きなストーリー。

Book info

サトコとナダ
ユペチカ・著 西森マリー・監修 星海社COMICS

日本人女子大生とサウジアラビア人女子大生のルームシェア物語

サトコは、アメリカに留学した日本人女子大生。
ナダは、アメリカに留学したサウジアラビア人女子大生。

サトコは、イスラム教徒のナダとの共同生活にはじめは戸惑いつつも、共同生活を経て2人は学びあい、成長しあい、友情を育む。
そんな全4巻の物語。

どこにでもいそうな、女の子。だから、共感できる。

アメリカに留学するなんて、どんなに意識が高くてキラキラした女子大生なんだろうと思うかもしれない。
でも、サトコは、誰もが感情移入できそうな、どこにでもいそうな女の子。

自己主張が苦手で、言いたいことがなかなか言えない。
何となくみんなと同じ、に合わせる日々に、違和感を覚えつつもどうして良いかわからない。
何か自分を変えたいけど、どうして良いかわからない。

今の自分と、過去の自分と、どこか重なるところがあるから。
だから、サトコと自分が重なる。
それがこの本に夢中になる所以かもしれない。

わたし自身、サトコの姿には、つい過去の自分が重なる。

カナダでの英語研修で、声をかけてもらえるまで全くディスカッションに参加できなくて、自己主張のなさに苦しんだ大学1年の夏。

NGOの海外事務所でのインターンで「楽しいならもっと楽しそうにしないと、気を遣わせてるよ」「何でもいいよ、質問ないの?」という何気ないことばに、自分の内気さや主体性のなさを突き付けられた大学2年の夏。

異文化を受け入れること、理解すること、共感することの違いと自分のスタンスに迷い続けた1年間のミャンマー生活。

わたしの場合はたまたま海外経験を思い出したけど、サトコと自分が重なるのは海外での経験に限らない。
母国にいたって、他人との違いや自分らしさというものにもがくことはいくらでもある。

サトコの10代後半~20代前半のピュアな疑問と悩みは、いろんな形でどこか共感してしまって、目が離せない。
悩んだり、考えたり、でも色んな文化や価値観を知るのは楽しくて、日々のちょっとしたやりとりや冗談が楽しくて仕方なくて。
その温かさが、ストーリーに引き込ませる。

わたしは、あなたを知りたい

「サトコとナダ」では、2人の日常を通じて、時にユーモラスに、時に真剣に「海外と比較した日本」や「イスラム文化」が描かれる。
サウジアラビア出身で敬虔なイスラム教徒のナダの習慣や価値観は、イスラム文化について知るという意味でも面白い。

ただ、その中で個人的に印象的なのがこの場面。

ナダ「サトコは私たちの文化にとっても興味があるのね。私もちゃんと説明するために勉強しないと」
サトコ「ううんナダちがうの。文化を知りたいのはもちろんだけど 私はナダ あなたを知りたいの」

自分と違うものに出会ったとき、わたしたちは「○○の人たち」というように一括りにしがちだ。
特に、海外にルーツをもつ相手(「欧米人」「アメリカ人」「ハーフ」等)や、地域(「アジア」「アフリカ」等)なんかはラベリングしやすい。
LGBTQ+、シングルマザー家庭なんていうのも、その中に多様性があるにも関わらず、1つにまとめてしまいがちだ。
関西出身だから~、MARCH卒だから~、なんていうのもそうだろう。

ラベリングが悪いとは言い切れない。
1つひとつの事象を見ていたらキリがないし、ラベリングすることによって表出化する周辺の人々もいるかもしれない。
名前がつくことによって生まれる一体感もある。

だけど、わたしたちは、ラベリングされた向こうにある個人の顔を忘れてはいけない。
日本人・東京都出身・20代女性・○○大卒・○○社所属という括りの向こうに、わたしという1人の人間がいるように、「イスラム教徒」「サウジアラビア人」というラベルの奥には、女性だけの自宅パーティーでヒジャブを脱ぎ捨てゴージャスなドレス姿ではしゃいだり、チョコレートを嬉しそうに頬張ったりする、ナダという1人の女性がいることを、忘れてはいけない。

人間の脳みそは、つい楽をしたがる。
物事を単純化したがる。
難しく考えるのは、面倒で、疲れる。

だから、せめて、目の前の人と関わるときは。
そのときは、その人が身につけているラベルという鎧をはねのけて、その個人をまっすぐに見たい。

それは、わたし自身が海外生活の中で感じた、「○○人だから」ではなく個人対個人として接する大切さ、仕事の中で感じた、「お客様」ではなく目の前の1人に向き合う大切さと重なる。

イスラム文化という壮大なバックグラウンドを理解し、その上で目の前の個人と向き合うこと。
サトコとナダの日常のやりとりは、その難しくも大切な人や文化への向き合い方を教えてくれる。

ユーモアな異文化理解の世界へ

勉強に、遊びに、恋に(!?)、ドタバタなサトコとナダの日常は、読みながらついついくすっと笑ってしまうこともある。
そして、どんどん強くなるサトコとナダの姿に、元気づけられる。
つい、ほろりと泣いてしまうことも。

ちなみに、わたしが今シェアハウスに住んでいるのは、本書を読んで海外でのルームシェア生活を思い出して、急に人と暮らしたくなったから。

温かさを感じながら、イスラムやアラブ文化を学び、そしてちょこっと視野が広がる。
だから、何度でもサトコとナダに会いたくて、この本を開いてしまうのかもしれない。

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